請負と派遣

August 11, 2008

客先常駐の今後

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第208号  2008/8/11 『客先常駐の今後』
  ▼  まえがき:コンプライアンス問題と技術者余り
  ▼  [請負と派遣] (1)偽装請負問題の整理:社員のチーム常駐
  ▼  [請負と派遣] (2)偽装請負問題の整理:常駐作業の再委託
  ▼  [請負と派遣] (3)偽装請負問題の整理:社員の一人常駐
  ▼  [請負と派遣] (4)ブローカー的な会社は壊滅的打撃を受けている
  ▼  [請負と派遣] (5)仕事の減少に伴う技術者余り
  ▼  [請負と派遣] (6)ソフト会社が取るべき戦略
  ▼  [請負と派遣] (7)おまけ:偽装請負の極端な解釈
  ▼  [請負と派遣] (8)メルマガ紹介「ソフトハウスのための幸福経営論」

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  まえがき:コンプライアンス問題と技術者余り
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蒲生嘉達(がもうよしさと)です。

多くのIT技術者が客先で常駐開発をしています。

本日は客先常駐の今後についてお話しします。

現在、次の2点が客先常駐開発の方向性に大きな影響を与えています。

(1)コンプライアンス問題
(2)仕事の減少に伴う技術者余り

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[請負と派遣] (1)偽装請負問題の整理:社員のチーム常駐
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コンプライアンス問題からお話しします。

コンプライアンス問題には、偽装請負、多重請負、機密情報保護、
個人情報保護などの問題が含まれます。
そして、それらが絡み合っています。

まず、偽装請負問題を整理してみましょう。

抽象的な概念ではなく、具体なパターンで考えていきます。

最も基本的なパターンを「図208-1:社員のチーム常駐」
http://www.kei-it.com/sailing/2008/208-1.htm に示します。

請負契約(民法632条)で客先常駐する場合もありますが、ここでは
委任契約(民法656条)を前提としています。

請負契約と委任契約の基礎知識については「新航海術の補足ブログ」の
下記記事を参照してください。

 新航海術の補足ブログ「用語の基礎知識(請負・委任・派遣)」
 http://www.gamou.jp/comment/2008/08/post_405c.html

この場合、請負会社Bシステムの業務責任者である山田さんは、
その業務に関してBシステムを代理する権限があります。

そして、エンドユーザ(A商事)からの具体的な注文・相談を受け、
Bシステムの社員(杉山さん)に指図・命令します。

これが、業務委託契約による客先常駐開発の基本形であり、法律的な
問題は全くありません。

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[請負と派遣] (2)偽装請負問題の整理:常駐作業の再委託
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パターンを徐々に変化させていきます。

元請会社Bシステムが下請会社Cソフトに再委託するパターンを
「図208-2:チーム常駐+再委託」
( http://www.kei-it.com/sailing/2008/208-2.htm )に示します。

元請会社と下請会社が共に客先常駐しているというごく一般的な
パターンです。

これについては細かいことを言うと「委任契約の再委託」という点で
少し怪しいところもありますが、実務上は全く問題とされません。

「少し怪しい点」に興味のある方は「新航海術の補足ブログ」の下記の
記事を参照してください。

 新航海術の補足ブログ「委任の再委託、再々委託」
 http://www.gamou.jp/comment/2008/08/post_f88d.html

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[請負と派遣] (3)偽装請負問題の整理:社員の一人常駐
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次に、技術者が一人で常駐するパターンを考えてみましょう。

「図208-3:社員の一人常駐」に示すような
( http://www.kei-it.com/sailing/2008/208-3.htm )パターンです。

これもよくあるパターンです。

作業ボリュームが一人分しかなかった場合はこのようになります。

または、設計時点ではSEの一人常駐、製造段階ではSE/PGのチーム常駐、
最後の保守フェーズでは再びPGの一人常駐となる場合もよくあります。

この場合、「Bシステム側に業務責任者がいない」とも言えるし、
「山田さんは業務責任者と作業者を兼任している(部下なしリーダ)」
とも言えます。

業務責任者と作業者が分離していないので、山田さんがA商事から
受けている要求は「注文/相談」(実態として委任)なのか、それとも
「指図/命令」(実態として労働者派遣)なのかという議論が起きやすい
パターンです。

このパターンについては「新航海術の補足ブログ」の下記の記事で
細かい議論をしているので、興味のある方は参照してください。

 新航海術の補足ブログ「技術者の一人常駐」
 http://www.gamou.jp/comment/2008/08/post_78b2.html

結論のみ言うと、山田さんを専門家として扱うなら委任契約が適して
いますし、細かい指示を必要とする作業員として扱うなら労働者派遣
契約が適しています。

少なくともシステム開発(運用・サポートではなく)の場合には、
労働者派遣よりも委任契約を選択するケースの方が多いです。

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[請負と派遣] (4)ブローカー的な会社は壊滅的打撃を受けている
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図208-1から図208-3では問題とならないパターンを示しました。

今度は逆に問題とされているパターンを示します。

「図208-4:多重請負」http://www.kei-it.com/sailing/2008/208-4.htm
のパターンです。

元請会社Bシステムの社員が常駐していません。
さらにBシステムとCソフトとの間に中間会社が入っています。

現在、多くの元請会社が排除しようとしているのはこのパターンです。
その理由は次のとおりです。

【委任の再々委託】
排除する第一の理由として「委任の再々委託」という点に無理があると
いうことがあげられます。
「委任の再々委託」に無理があるので、形式的には請負(民法632条)に
しますが、実態としては完成を約束していないので、偽装請負となります。
詳細は下記記事を参照してください。

 新航海術の補足ブログ「委任の再委託、再々委託」
 http://www.gamou.jp/comment/2008/08/post_f88d.html

【機密情報・個人情報保護】
第二の理由として、機密情報保護、個人情報保護で問題が発生しやすい
ということがあげられます。

多くの元請会社がこのような多重請負、偽装請負を排除しようとして
いるため、ブローカー的な会社は壊滅的な打撃を受けています。

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[請負と派遣] (5)仕事の減少に伴う技術者余り
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コンプライアンス問題で話が長くなりました。

次に、「仕事の減少に伴う技術者余り」についてお話しします。

>   実は3月以降、大型プロジェクトの凍結や
>   派遣人材の突然の解約といった
>   IT投資縮小の流れが表出しています。

上記は、船井総合研究所の長島淳治氏が発行しているメルマガ
「ソフトハウスのための幸福経営論」8月11日号からの引用です。

今年の3月前後から、仕事が減り技術者が余ってきました。

詳細は「新航海術の補足ブログ」の下記の記事を参照してください。

 新航海術の補足ブログ「ソフト業界は3月を境に技術者余りに転じた」
 http://www.gamou.jp/comment/2008/08/3_fb49.html

持ち帰り開発案件も客先常駐案件も減っています。
その結果、下記の技術者は常駐作業に入れなくなっています。

・外国人
・高年齢者
・経験の少ない人

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[請負と派遣] (6)ソフト会社が取るべき戦略
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このような状況下で、ソフト会社が取るべき戦略は次の3つ、または
その組み合わせです。

・元請会社として営業力を高める。
・社員を積極的に雇用して育てる。
・客先常駐以外の仕事(持ち帰り開発、自社製品・サービス)を増やす。

慶としては上記3つを同時に推進しています。

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[請負と派遣] (7)おまけ:偽装請負の極端な解釈
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さて、下記の主張は正しいでしょうか?

○超過時間清算があるなら偽装請負である。

○「図208-1:チーム常駐」のパターンで進捗会議などに個々の
 担当者(例では杉山さん)が出席したら、偽装請負である。
 (進捗会議の場で注文や相談を受ける可能性があるから。)

○「図208-1:チーム常駐」のパターンでシステムがダウンした時などの
 いわゆる緊急時にA商事の社員が直接個々の担当者(例では杉山さん)
 に直接的な指示・指図を出したら、偽装請負である。

興味のある方は「新航海術の補足ブログ」の下記の記事を参照してください。

 新航海術の補足ブログ「偽装請負の極端な解釈」
 http://www.gamou.jp/comment/2008/08/post_c318.html

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[請負と派遣] (8)メルマガ紹介「ソフトハウスのための幸福経営論」
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本文でも引用したメルマガを紹介します。

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June 22, 2008

個人事業主が置かれている状況

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第206号  2008/6/23 『個人事業主が置かれている状況』
  ▼  まえがき
  ▼  [請負と派遣の間] (1)技術の標準化/PCの低価格化と個人事業主
  ▼  [請負と派遣の間] (2)個人情報保護や機密情報保護の強化
  ▼  [請負と派遣の間] (3)個人事業主への再委託
  ▼  [請負と派遣の間] (4)個人事業主への再委託禁止の理由
  ▼  [請負と派遣の間] (5)個人事業主支援
  ▼  [請負と派遣の間] (6)補足

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  まえがき
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蒲生嘉達(がもうよしさと)です。

最近、個人事業主(特に40代、50代)から「仕事が無くなってきた」という
話をよく聞きます。

本日は個人事業主が現在置かれている状況についてお話しします。

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[請負と派遣の間] (1)技術の標準化/PCの低価格化と個人事業主
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私は第83号で「技術の標準化とPCの劇的な高性能化・低価格化によって、
個人事業主が存在しやすくなった」ということを書きました。

 第83号:個人事業主
 [B] http://www.gamou.jp/sailing/2005/07/post_d020.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/83-050711.html

尚、第204号で述べた「90年代に大手ソフトウェア会社の外注比率が
激増した現象」の最大の要因も「技術の標準化とPCの劇的な高性能化・
低価格化」にあります。

 第204号:ソフトウェア業はもともとは多重階層型でなかった
 [B] http://www.gamou.jp/sailing/2008/05/post_2eb8.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/204-080510.html

詳しくは、「新航海術の補足ブログ」の下記記事を参照してください。

 「なぜ90年代に大手ソフトウェア会社の外注比率が激増したのか」
 http://www.gamou.jp/comment/2008/06/206_8aac.html

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[請負と派遣の間] (2)個人情報保護や機密情報保護の強化
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しかし、第83号は今から3年前(2005年7月11日発行)に書かれた記事です。
現時点で個人事業主が置かれている状況は少し違います。

個人事業主が生きづらい状況になってきたのです。

その理由の一つは、個人情報保護や機密情報保護の強化にあります。

下記はある個人事業主からいただいたメールの中の一文です。

情報保護法が極端に理解されているようで、持ち帰りも少なくなっている状況も身にしみています。(ある個人事業主からのメールより)

個人情報保護や機密情報保護の強化は、中小ソフトウェア会社にとっても
持ち帰り開発を受託しにくい状況を作り出しています。

しかし、会社の場合にはPマークやISMSを取るなどして、情報管理が
しっかりしていることをアピールし、状況を若干改善することができます。

ところが個人事業主にはそれができません。

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[請負と派遣の間] (3)個人事業主への再委託
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個人事業主は常駐案件についても制約を受けています。

例えば、「図1:社員の常駐作業」
( http://www.kei-it.com/sailing/2008/shain-jouchu.htm )に示す
ように、元請会社Bシステムが作るチームに、業務委託契約(準委任)で
下請会社Cソフトの社員(鈴木さん)が入るのは良いとされます。

図1を見て「Bシステムの社員(山田さん)がCソフトの社員
(鈴木さん)に指図しているから偽装請負ではないか」と考える人も
いるでしょうから、その点について簡単に触れておきましょう。

鈴木さんが専門技術を認められ、仕事を任されているなら、図中の
山田さんから鈴木さんへの矢印は「指図」ではなく、「注文」と
見なされます。

請負の場合であっても、当然、注文主としては請負業務の内容について注文を付けるのが一般的である。となると、注文主の出す「注文」と、ここでいっている「指示」「指図」とはどう異なるのであろうか。

作業内容、方法について逐一指示があり、自由裁量の余地がないような場合は、ここでいう「指示」「指図」にあたるわけで指揮命令の存在を評価されるわけだ。
  (山崎 陽久著「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」より)

もしも、鈴木さんが、作業内容、方法について逐一指示を受けている
なら、労働者派遣契約にすべきでしょう。
「図2:労働者派遣契約」( http://kei-it.com/sailing/2008/haken.htm )
参照。

 関連記事:第54号「準委任と人材派遣を分かつもの」
 [B] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2004/12/post_75f8.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/54-041220.html

労働派遣契約になったとしても、鈴木さんは何も困りません。

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[請負と派遣の間] (4)個人事業主への再委託禁止の理由
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しかし、「図3:個人事業主の常駐作業」
( http://www.kei-it.com/sailing/2008/ic-jouchu.htm )のような
形態は認めないという元請会社が増えてきています。

「図1:社員の常駐作業」でのCソフトから鈴木さんへの矢印は
雇用契約であり、そこには明らかに強制力を伴う「指図」が存在します。

しかし、「図3:個人事業主の常駐作業」でのCソフトと佐藤さん
との関係は対等な業務委託契約(準委任)であり、そこには雇用関係
をベースとした「指図」が存在しません。

「図3:個人事業主の常駐作業」のような形態を認めない元請会社が
増えている理由は、行政からの指導だけでなく、このような形態で
過去に多くのトラブル(情報漏洩など)が発生したからでしょう。

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[請負と派遣の間] (5)個人事業主支援
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上記二つの理由によって、現在、ソフトウェア業界は個人事業主が
生きづらい世界になってきています。

それが日本のソフトウェア業界に与える影響について、私はまだ
よく考えていません。

しかし、慶としては微力ながら、個人事業主を支援していきたいと思っています。

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[請負と派遣の間] (6)補足
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第203号、第204号、第205号で、私は「日本のソフトウェア産業が
いつまでもダメな理由」(久手堅憲之著)を批判的に引用しています。

個人事業主に関する記述でも、この本については不満があります。

詳しくは、下記ページを参照してください。

 新航海術の補足ブログ:
 「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由」への不満
 ( http://www.gamou.jp/comment/2008/06/post_9145.html )

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September 19, 2006

取引コスト

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第145号 2006/9/18
▼ まえがき
▼ [グーグルの衝撃] ロナルド・コースが提唱した「取引コスト」
▼ [グーグルの衝撃] 取引コストとは市場を利用するためのコスト
▼ [グーグルの衝撃] ソフトウェア請負契約の取引コスト
▼ [グーグルの衝撃] 内製する米国、外注する日本
▼ [グーグルの衝撃] 労働者派遣契約・準委任契約と取引コスト
▼ [グーグルの衝撃] インターネットは取引コストを下げる
▼ 次回以降の予告


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まえがき
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蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

第138号から「グーグルの衝撃」シリーズを開始しています。

このシリーズではIT業界の現在と未来について考えます。

「グーグルの衝撃」シリーズを最初から読みたい方は、
「バックナンバー グーグルの衝撃」
( http://www.kei-it.com/sailing/back_google.html )を参照して
ください。

または、ブログ( http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/ )の
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[グーグルの衝撃] ロナルド・コースが提唱した「取引コスト」
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複雑な世界を見通すときに役立つ強力なレンズが存在します。

例えば、WEBでのマーケティングについては、ロングテール理論は
強力なレンズと言えるでしょう。

第143号「ロングテール」参照:
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2006/09/post_70c5.html
http://www.kei-it.com/sailing/143-060904.html


今週号では、ロングテール理論よりもはるかに応用範囲の広い
レンズを紹介します。

ロナルド・コースが提唱した「取引コスト」です。

「取引コスト」という概念は、名前からして非常に地味な概念です。
「ロングテール」はネット上でも様々な論争が繰り広げられていますが、
「取引コスト」の方はほとんど話題にのぼりません。

例えば、先ほどグーグルで「ロングテール」で検索したところ、
3,660,000件ヒットしました。
一方、「取引コスト」で検索したところ、わずか138,000件しかヒット
しませんでした。
しかも、その138,000件の半分以上は証券会社のサイトで、「外貨
取引のコスト」という意味で使われていました。
例えば次のように・・・。

 『米ドル/円の取引を行った場合1ドルにつき、わずか1銭の
  取引コスト!!』

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[グーグルの衝撃] 取引コストとは市場を利用するためのコスト
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したがって、コースが提唱した「取引コスト」を知らない人も多いと
思います。実は私も、つい数ヶ月前に知りました。

コースの「取引コスト」の詳細については、下記URLを参照してください。
http://www.stanford-jc.or.jp/research/news-event/imai/imai030203.html

日本経済新聞で2003年2月2日から2月12日にかけて連載された「やさしい
経済学-巨匠に学ぶ『コース』」(今井賢一氏筆)というコラムが転載
されています。


製品やサービスを提供するためには、原材料費、人件費、輸送費、
資本費といった様々なコストがかかります。
今までの経済学では、これらのコストの分析ばかりしてきました。
しかし、市場での価格メカニズムを利用するためには、実は他にも
様々なコストがかかります。
「諸価格がいくらであるかが発見されねばない。交渉が行われねば
ならず、契約が書き下ろされ、検査が行われ、紛争を処理するための
取り決めが設定されねばならない」(コース)

この「市場での価格メカニズムを利用するためにかかる様々なコスト」
を「取引コスト」と呼びます。

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[グーグルの衝撃] ソフトウェア請負契約の取引コスト
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これだけ聞いても、「取引コスト」がいかに重要な概念であるか
理解できないと思います。

「取引コスト」が企業、組織、雇用などの複雑な問題を見通すために
いかに強力であるかを示すために、「取引コスト」の観点から、
ソフトウェアの請負開発について考えてみましょう
ソフトウェア会社にとって身近な問題なので、分かりやすいと思います。

請負契約では、ビル建設でもソフトウェア開発でも、納品物の価格は
市場での価格メカニズムで決まります。
ごく小規模なシステム、大手SIやメーカにぶら下がっている下請け
会社への発注の場合を除き、請負契約には「入札」や「相見積もり」
という手順が発生します。
発注側が要件を提示し、複数の請負会社が見積もりを提出します。
発注側はその中から、価格・納期・品質の観点で最も優れた業者を
選択します。

請負業者間で競争が発生するので、発注側から見ると、外注コストを
削減できます。

しかし、請負契約とは、実は取引コストが非常に高い契約形態なのです。
要件の確定、見積もりの妥当性の検討、詳細な契約書の作成、発注後の
進捗管理、納品後の検収テストといった様々な取引コストが発生します。
仕様変更が発生した場合の追加契約では、さらに同じループが何度も
発生します。
そして、失敗した場合のリスクも引き受けなければなりません。

請負開発がしばしば失敗するのは米国も日本も同じです。

参考記事:
 第63号「途中放棄の米国、品質低下の日本」
  http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2005/02/post_61ce.html
  http://www.kei-it.com/sailing/63-050221.html

 第73号「ファウラー氏の請負契約観」
  http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2005/05/post_deaf.html
  http://www.kei-it.com/sailing/73-050502.html

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[グーグルの衝撃] 内製する米国、外注する日本
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請負契約による外注の対極が、自社情報システム部門による内製です。
社員を使って作れば取引コストはゼロになります。
しかし、別のコストが発生します。長期的な人件費です。

したがって、社内で作るかどうかは、「社員を雇うことにより発生
する長期的な人件費」と「外注費+取引コスト」のどちらのコストが
高いかという問題です。

以前、マイクロソフトのPOS関係の営業マンから、次のような話を
聞いたことがあります。
「日本ではイトーヨーカドーやセブンイレブンなどの巨大な店舗
システムは、NECなどのベンダーに一括請負契約で発注される方が
一般的ですが、米国の流通業では社内で開発される方が一般的です。
したがって、社内の情報システム部の要員数は、日本より米国の方が
多いのです。」


社内の情報システム部の要員数が、日本より米国の方が多いことが
事実だとしたら、それには下記の理由が考えられます。
・日本の場合、終身雇用制がまだ生きていて、長期雇用によるコスト
 の方が取引コストよりも大きい。
・日本では、請負契約といえども、純粋な市場メカニズムで決まって
 いるわけではなく、長期的・系列的な取引で決まっており、それが
 取引コストを押し下げている。
・日本では、受注会社が頑張って大赤字になってでもやってしまうので、
 それが取引コストを押し下げている。

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[グーグルの衝撃] 労働者派遣契約・準委任契約と取引コスト
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自社での内製と請負開発による外注の中間形態として、労働者派遣や
準委任契約という形態があります。
労働者派遣の場合、発注側には長期雇用によるコストも、請負契約の
ような取引コストもかかりません。
但し、労務管理コスト、指揮命令コストは発生します。

特定派遣の場合は長期雇用によるコストを派遣会社側が負担しますが、
一般派遣の場合は派遣会社側も負担しません。

準委任契約は請負契約の一種ですが、納品物ではなくサービスに
着目した契約形態です。
労働者派遣では労務管理コスト、指揮命令コストは発注側が負担
しますが、準委任契約の場合は労務管理コスト、指揮命令コストは
受注側が負担します。

労働者派遣契約と準委任契約については下記を参照してください。

第52号「人材派遣業は指揮命令権のレンタル業」
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2004/12/post_8e31.html
http://www.kei-it.com/sailing/52-041206.html

第54号「準委任と人材派遣を分かつもの」
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2004/12/post_75f8.html
http://www.kei-it.com/sailing/54-041220.html


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[グーグルの衝撃] インターネットは取引コストを下げる
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取引コストという概念は、今後の組織、企業のあり方を考える上で
極めて重要です。

> 社外の企業との取引コストが上昇すれば、企業の規模は大きく
> なりがちだ。逆に、取引コストが低下すれば、企業の規模が
> 小さくなる。
> (ニコラス・G・カー著「ITにお金を使うのは、もうおやめなさい」)


そして、インターネットは取引コストを下げると言われています。

面白いところは、IT革命論派とアンチIT革命論派とでは、
「インターネットが取引コストを下げる」という点では一致して
いながら、それぞれが描く未来の組織像が正反対であると言う点です。

この点について次号以降で解説します。

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次回以降の予告
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次号以降では次のようなテーマを取りげていきます。

グーグルの衝撃シリーズ:
・ウェブサービス時代のソフトウェア会社のあり方

ゴーイング・コンサーンシリーズ:
・会社は継続しなくてもよいという考え方もある。
・メリーチョコレートを支えている人事制度。
・IPOとゴーイング・コンサーン

財務系
・資産と費用

法務系:
・コンプライアンス
・執行役の裁量の範囲と取締役会の決定権

労務系:
・裁量労働制


次号は、9月25日発行予定です。

乞うご期待!!

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目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
「まぐまぐ!」での読者数は2006年9月16日現在、550名です。


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May 29, 2006

時間と成果が比例しない仕事の労働者派遣はどうあるべきか

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第129号 2006/5/29
▼ まえがき
▼ [派遣と請負の間] 準委任契約と労働者派遣契約を分かつもの
▼ [派遣と請負の間] 注文か命令か?費用の償還請求か時間管理か?
▼ [派遣と請負の間] 成果と費やした時間が比例しない
▼ [派遣と請負の間] 裁量労働型の労働者派遣
▼ [派遣と請負の間] 派遣、業務請負に関するバックナンバー
▼ 次回以降の予告

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まえがき
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蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

下記は日経ITPro「IT業界のタブー「偽装請負」に手を染めてませんか 」
( http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20060113/227252/ )
からの引用です。

> 偽装請負とは,書類上は請負契約もしくは業務委託契約(以下,
> 請負契約)でありながら,開発・運用担当者を実質的に「派遣」
> として働かせて利益を得る行為のことをいう。
> ちなみに客先に常駐すること自体は違法ではなく,労働者への指示や
> 時間管理をしていることが問題となる。

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[派遣と請負の間] 準委任契約と労働者派遣契約を分かつもの
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確かにコーダ、テスター、オペレーター、初級プログラマの仕事を
請負契約でやっていて、顧客が労働者への指示や時間管理をしているなら、
偽装請負にあたる可能性が高いでしょう。

しかし、上級プログラマ、SEなら、たとえ一人で客先常駐作業をして
いる場合でも、労働者派遣契約よりも、請負契約の方が自然だと私は
思います。

上級プログラマ、SEの仕事は本質的に自由裁量の余地がある仕事であり、
それ故に、労働者派遣はなじまないからです。
(第54号「準委任と人材派遣を分かつもの」
http://www.kei-it.com/sailing/54-041220.html 参照。

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[派遣と請負の間] 注文か命令か?費用の償還請求か時間管理か?
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SEが一人で客先常駐作業をするとき、確かに顧客からの注文を受け
ながら仕事をします。

例えば、進捗会議などにSEが出席して、その席上で顧客から要望が
出され、SEが受諾するということもあるでしょう。

【問1】
これは、請負における「注文」なのでしょうか?
それとも労働者派遣における「指図」「命令」なのでしょうか?

また、時間清算も行われています。

例えば、「月の稼動実績が180時間を越えた分は30分単位で時間清算
する」というように。

【問2】
これは請負(準委任)における「必要な費用の償還請求」なのでしょうか?
(弁護士や公認会計士などの典型的な準委任契約でも時間清算は
あります。)
それとも労働者派遣における「分単位の時間管理」なのでしょうか?

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[派遣と請負の間] 労働時間と成果が比例しない
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上記「問1」「問2」については別の機会に論じるとして、
今回は、仮にSEの1人常駐を労働者派遣で運用するとしたらどのような
運用になるのかという点から論じてみましょう。

事務職や製造業の職工では、労働時間と成果はだいたい比例します。
そして、労働者派遣はそのような、労働時間と成果がほぼ比例する
ような仕事を前提としています。
したがって、分単位の時給清算となります。

しかし、SE・PGの場合、労働時間と成果は比例しません。
そのため、多くのソフトウェア会社は、「生産性の低い人ほど残業が
増え給料が高くなってしまう」という問題に悩まされています。
長年雇用し、技量が分かっている正社員を使っても時間と成果が
比例しないのです。

SEの常駐作業を労働者派遣で運用する場合には、同じ問題を顧客が
抱えることになるでしょう。

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[派遣と請負の間] 裁量労働型の労働者派遣
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SE/PGの世界に本当に労働者派遣を普及させるためには、「時間と成果が
比例しない仕事の労働者派遣はどうあるべきか」という難問を解決しな
ければなりません。

この問題を解決するためには「裁量労働型の労働者派遣」という
考え方を導入する必要があるかもしれません。

「裁量労働」というのは、大枠で目標は与えられているが、仕事の
進め方などは、すべて自分の裁量で決めていく仕事のことです。

裁量労働については、その業務を通常処理するためにはどの程度の
時間を労働するとみなすのが適当であるかについて労使で協定をした
ときは、その時間労働したものとみなすという制度が、労動基準法で
定められています。これを「裁量労働制」と言います。

但し、裁量労働制を採用しても、みなし労働時間を超えた時間外労働
手当はありますし、深夜労働手当や休日出勤手当もあります。
(この点は多くの経営者が誤解しています。)

もしも本当にSE/PGの世界に労働者派遣を普及させたいなら、SE/PGの
仕事の裁量労働性(「制」ではない)を直視し、「裁量労働型の労働者
派遣」について議論しなければなりません。
また、それは不可能ではありません。
しかし、そのような議論がなされているという話は聞いたことが
ありません。

但し、弁護士や社会保険労務士の派遣を認める特区ができるという
話は聞いたことがあります。
これは、裁量労働型の労働者派遣の突破口になるかもしれません。

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[派遣と請負の間] 派遣、業務請負に関するバックナンバー
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これまで、派遣、業務請負について解説した記事は下記のとおりです。

第52号「人材派遣業は指揮命令権のレンタル業」
http://www.kei-it.com/sailing/52-041206.html

第53号「大手業務請負会社の業務請負」
http://www.kei-it.com/sailing/53-041213.html

第54号「準委任と人材派遣を分かつもの」
http://www.kei-it.com/sailing/54-041220.html

第55号「ソフトウェア業務請負の最大の問題点」
http://www.kei-it.com/sailing/55-041227.html

第57号「「人材登録型の業務請負」を狙う大手派遣会社」
http://www.kei-it.com/sailing/84-050718.html

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次回以降の予告
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次号以降では次のようなテーマを取りげていきます。

技術系:
・グーグルの衝撃
 (本を読むこと、ネットで読むこと)
・OSS(オープンソースを持ち上げる人々、オープンソースの実態)
・Linux台頭とSUN
・メーカからの請負、エンドユーザからの請負
 (品質管理、検収、瑕疵担保責任の違い)
・オブジェクト指向再論
・PMBOK
・SEO対策

外国系:
・中国は脅威か?

法務系:
・コンプライアンス
・取締役と執行役員

労務系:
・雇用契約、裁量労働制、個人事業主
・景気回復、新卒の採用難、2007年問題

営業系:
・売れる営業マン

次号は、6月5日発行予定です。

乞うご期待!!

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July 19, 2005

大手派遣会社の脅威

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第84号 2005/07/18
▼ まえがき
▼ [永久運動の設計] 「人材登録型の業務請負」を狙う大手派遣会社
▼ [永久運動の設計] 大手派遣会社の脅威
▼ [永久運動の設計] 次回以降の予告


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まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

「永久運動の設計」シリーズは、ソフトウェア会社の最適な組織
について探っていくシリーズです。

「永久運動の設計」シリーズを最初から読みたい方は、
http://www.kei-it.com/sailing/back_forever.html を参照してください。

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[永久運動の設計] 「人材登録型の業務請負」を狙う大手派遣会社
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第83号では「技術の標準化が人材流動化を引き起こす。個人事業主の
増加はその一つの表れである」ということを述べました。

今後も個人事業主および個人事業主に近い零細企業(一人社長の会社)は
増えていきます。
したがって、個人事業主のエージェントとして振舞う会社は成功
するでしょう。

そして、実際に大手派遣会社はそこを狙っています。

例えば、リクルートは「アントレプロワーカーバンク」
( http://entre.yahoo.co.jp/pro/index.html )なるものを始めました。

また、リクルートは月刊誌アントレの3月号で、次のような美しい言葉で
個人事業主を釣っています。

> 会社に属し給料をもらって働く「会社員」ではなく、企業と対等の
> 関係で契約を結び、独立した個人事業主として能力・スキルを提供し、
> 成果で応え、報酬を得る。
> 自分を常に仕事を選択する立場に置き、やりたい仕事をやりたい時にやる。
> そんな、組織に縛られずに、自分が培った人脈・経験・スキルを活かして
> 働く人を、私たちはプロワーカーと名付けました。


ここで注意すべきことは、リクルートが「SEの一般派遣」ではなく、
「人材登録型の業務請負」をやろうとしている点です。

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[永久運動の設計] 大手派遣会社の脅威
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私は第52号で「人材を規格化・分類・交換可能なものとして扱うと
いう人材派遣会社の本質がソフトウェア開発の本質と合わない。
したがって、派遣会社は今後もソフトウェア業界では影の薄い存在
であり続けるであろう」というようなことを書きました。
( http://www.kei-it.com/sailing/52-041206.html 参照)

SE派遣を一般派遣のみでやっている大手派遣会社は怖くありませんが、
「人材登録型の業務請負」を本気になってやりだした大手派遣会社は
脅威です。

人材登録型の業務請負をやっているソフトウェア会社は大手派遣会社の
資金力、組織力、宣伝力、営業力に負けて淘汰されるかもしれません。

慶のITサービス事業部も似たようなことをやっているので、より一層の
工夫が必要となります。


> 向上心のある技術者ほど中小ソフト会社から流出していくのである。
> では彼らはどうやって職にありつくのか。
> IC(インディペンデント・コントラクター)いわゆる個人事業主として
> 腕一本で開発案件を獲得する道が整いつつあるのだ。
> 技術者派遣大手は相次いでICの囲い込みに乗り出している。
> “雇われない”技術者の増加は人集めに奔走してきた中間業者の衰退を
> 招きそうだ。
>
>        (ソフト人脈2005/6/25号「鵜の目鷹の目」より)

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[永久運動の設計] 次回以降の予告
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それでは、ソフトウェア業界が、人材登録型の業務請負をやる大手
派遣会社とそれに登録している個人事業主だけになるのかというと、
そうではありません。


次号以降で下記のことを書いていきます。

・創造的な技術者が個人的な能力で牽引する会社は短期的には成功するが、
 長期的には息切れする。

・「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」方式の会社が長期的には成功する。
 でも、それをやるためには、個人ではなく組織が必要である。

・技術の標準化が引き起こす人材流動化は正社員の給与体系にも影響を
 与える。成果主義型報酬体系とは正社員の社内個人事業主化である。

・金持ち会社がM&Aをする理由。
 M&Aは成功するか?


次号は、7月25日発行予定です。

乞うご期待!!

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July 11, 2005

個人事業主

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第83号 2005/07/11
▼ まえがき
▼ [永久運動の設計] 個人事業主とは
▼ [永久運動の設計] インディペンデント・コントラクター
▼ [永久運動の設計] 個人事業主が増えた理由
▼ [永久運動の設計] 次回以降の予告


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まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

今週号は久々の「永久運動の設計」シリーズです。
「永久運動の設計」シリーズでは、ソフトウェア会社の最適な組織
について探っていくシリーズです。

「永久運動の設計」シリーズを最初から読みたい方は、
http://www.kei-it.com/sailing/back_forever.html を参照してください。

「個人事業主」から話を始めます。

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[永久運動の設計] 個人事業主とは
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「個人事業主のソフトウェア技術者」とは「会社と雇用契約ではなく
業務単位の請負契約を結んでいるソフトウェア技術者」です。
フリーランス、フリーSEとも言います。
自分で確定申告をし、国民健康保険、国民年金に加入しています。

私がソフトウェア業界に入ったのは1986年です。
その頃からフリーSEは存在していましたが、あくまでも例外的な
存在でした。今ほど多くはありませんでした。
正確な数字は分かりませんが、現在この業界にいる技術者の2割位は
個人事業主なのではないでしょうか?

個人事業主がここまで増えた理由として、「不況で会社が正社員雇用を
減らしたから」と言う人もいます。
確かに、リストラにあって、次の就職先が見つからず、個人事業主に
なったという人もいるでしょう。
しかし、私の感触ではそれは少数派です。

多くの個人事業主は(特に若い個人事業主は)、彼らなりに十分に
計算した上で、積極的に個人事業主を選んでいます。
会社に慰留されても、自らの意志で正社員を辞めて、個人事業主
という生き方を選択しています。

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[永久運動の設計] インディペンデント・コントラクター
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参考までに、会社と請負契約を結ぶ個人事業主は、米国では
インディペンデント・コントラクター Independent Contractor
(直訳すると「独立契約社員」)と呼ばれています。

現在900万人いると言われ、やはり急増しているそうです。

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[永久運動の設計] 個人事業主が増えた理由
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個人事業主が増えた理由は、「個人事業主が存在しやすくなったから」
です。
そして「個人事業主が存在しやすくなった」理由は、技術の標準化と
PCの劇的な高性能化・低価格化にあります。

今ではPCとインターネット環境があれば、どこでも最新の技術が学べます。
そして、そのようにして学んだ技術は会社横断的に通用します。
例えば、PHP5.0の勉強をしたいと思えば、PHP5.0のソースコードは
インターネットから無償でダウンロードできます。
そして、そのようにして学んだPHP5.0に関する知識はPHP5.0を使う
プロジェクトではどこでも役に立ちます。
あるいは、ある会社でJavaを学んだ技術者は、その会社を辞めても
翌日から別の会社の別のJavaプロジェクトに参加することができます。

「そんなこと当たり前だ」と若い技術者は思っているでしょうが、
これはごく最近のできごとなのです。

ほんの10数年前まで、技術者は高価な開発環境と標準化されていない
技術の中で生きていました。
例えば「三菱電機製オフコンで動くソフトウェアを三菱電機製オフコン
特有の言語で開発する」というように・・・。
その技術者が身につけた技術は、その会社の中でこそ最も高く
評価されました。
したがって、社員の定着率も高く、会社から離れて個人事業主になる
ことなど誰も考えなかったのです。

開発環境が劇的に低価格化し、技術が標準化されたことによって、
会社の縛りが弱くなったことが、人材流動化を促進しました。
その一つの表れが個人事業主増加です。

(「標準化」については、第7号を参照してください。
http://www.kei-it.com/sailing/07-040119.html )


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[5年後のシステム開発] 次回以降の予告
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開発環境の劇的な低価格化と技術の標準化によって、会社の縛りが
弱くなったことは会社のあり方を大きく変えていくと私は考えています。
次回以降に次のようなことを書いていこうと思います。

・個人事業主のエージェントとして振舞う会社は成功する。
 個人事業主のエージェントと大手派遣会社との違いは何か?

・創造的な技術者が個人的な能力で牽引する会社は短期的には成功するが、
 長期的には息切れする。

・「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」方式の会社が長期的には成功する。
 でも、それをやるためには、個人ではなく組織が必要である。

・技術の標準化が引き起こす人材流動化は正社員の給与体系にも影響を
 与える。成果主義型報酬体系とは正社員の社内個人事業主化である。

・金持ち会社がM&Aをする理由。
 M&Aは成功するか?


次号は、7月18日発行予定です。

乞うご期待!!

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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。


本メルマガの内容に興味を持つであろう方をご存知なら、是非
本メルマガの存在を教えてあげてください。

(以下をそのまま転送するだけです。)
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December 20, 2004

準委任と人材派遣を分かつもの

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第54号 2004/12/20
▼ まえがき
▼ [永久運動の設計] 準委任と人材派遣を分かつもの
▼ [永久運動の設計] 常駐SE/PGの自由裁量
▼ 次回以降の予告


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まえがき
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蒲生嘉達です。お疲れ様です。

本メルマガは2003年12月8日に創刊され、第32号(2004年7月12日号)
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発行者Webサイト: http://www.kei-it.com/sailing/ で、
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ソフトウェア業界の情報発信基地へと発展させていき、業界に新しい
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[永久運動の設計] 準委任と人材派遣を分かつもの
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第53号で次のように予告しました。

> 常駐しているソフトウェア技術者が顧客からの注文を受けて作業を
> すること(準委任)と、派遣社員が顧客から業務の遂行方法に関する
> 指示を受けて作業すること(人材派遣)とは一見似ていますが、
> 根本的な違いがあります。これについては次号で論じます。

 第53号:大手業務請負会社の業務請負
 [B] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2004/12/post_21e5.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/53-041213.html

たとえば、医者は患者から「病気を治してくれ」と頼まれます。
医者は患者に病状や治療方法について説明し、患者の希望を聞きながら
治療を進めます。
しかし、業務の遂行方法(治療の方法)については、医者は患者の
指示を受けません。

あるいは決算処理を税理士に依頼する場合を考えてみましょう。
決算の数字は、仕掛の扱い、減価償却の扱い(自社開発のソフトウェアを
資産として扱うか、経費として扱うか)などによって、ある程度は
変動します。
税理士は顧客と相談し、要望を聞きながら、数字を確定していきます。
しかし、業務の遂行方法(決算処理そのもの)については、税理士は
顧客の指示を受けません。

専門知識の面で患者と医者、顧客と税理士の間には大きな差があるので、
患者や顧客の側から業務の遂行方法を指示することはあり得ないのです。
医者や税理士は患者や顧客の注文を受けて作業しますが、作業の過程
では専門的知識、経験に基づく自由裁量が認められています。
この「自由裁量の有無」こそ、請負性の有無であり、準委任と人材派遣を
分かつものなのです。


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[永久運動の設計] 常駐SE/PGの自由裁量
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客先に常駐し、顧客から注文を受けて作業しているSE/PGにも自由裁量が
認められています。

コーダやテスターレベルの技術者なら、現場での指示は全く自由裁量の
ないものになるでしょう。
完全にマニュアル化することが可能だからです。
したがって、コーダやテスターの世界では人材派遣はある程度普及
しています。

一方、プログラミングはどんなに詳細な開発標準があったとしても、
完全にマニュアル化することは不可能です。
プログラミングという作業には、調査すること、考えること、判断すること、
工夫することが不可欠であり、本質的に自由裁量の余地がある仕事なのです。
したがって、実際にSE/PGの世界では人材派遣は普及していません。

> 実際の工場では、プロセスは詳細な手順にまでブレークダウンされて
> いるため、そのプロセスを実行するための機械的なスキルは数時間から
> 数日で簡単に学習できるのです。したがって、ほとんどの工場作業者の
> 訓練はそれほど長くかからず、彼らは単純労働者と分類されるわけです。
> 対照的に、ソフトウェア開発プロセスにおける各工程は、非常に幅の
> 広いものであり、プロセスを実行するには深いスキルが必要となります。
> つまり、単純労働者にソフトウェア開発プロセスを実行させることは
> 不可能なのです。
> (ピート・マクブリーン著「ソフトウェア職人気質」より)

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次回以降の予告
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次号は、12月27日発行予定です。乞うご期待!!

下記の問題を取り上げます。

・業務請負を中心とするソフトウェア会社の適正規模と最適な組織は?
・一括請負を中心とするソフトウェア会社の適正規模と最適な組織は?


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December 13, 2004

大手業務請負会社の業務請負

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第53号 2004/12/13
▼ まえがき
▼ [永久運動の設計] 週刊ダイヤモンド(12月11日号)の記事
▼ [永久運動の設計] 大手業務請負会社の業務請負
▼ [永久運動の設計] 「偽装請負」をする理由
▼ 次回以降の予告


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まえがき
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蒲生嘉達です。お疲れ様です。

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[永久運動の設計] 週刊ダイヤモンド(12月11日号)の記事
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第52号では人材派遣会社について取り上げました。

全くの偶然ですが、週刊ダイヤモンド12月11日号(12月6日発売)でも
人材派遣会社についての特集が組まれていました。

「人材派遣 急膨張の光と影」という記事です。
http://dw.diamond.ne.jp/number/041211/index.html 参照 )

その記事によると、人材派遣業界全体(業務請負を含む)の売上は
約4兆円、上位30社の売上高合計は約1兆7000億円だそうです。
市場の40%強が上位30社で占められていることになります。

この数字は人材派遣業界では規模や範囲の経済が大きくはたらくことを
示しています。

上位10社の2004年3月期の売上高は次のとおりです。

 1.スタッフサービス     2,528億円 一般派遣
 2.テンプスタッフ      1,610億円 一般派遣
 3.パソナ          1,570億円 一般派遣
 4.アデコ          1,550億円 一般派遣
 5.リクルートスタッフィング  883億円 一般派遣
 6.日研総業          882億円 業務請負
 7.マンパワージャパン     880億円 一般派遣
 8.メイテック         713億円 一般派遣
 9.日総工産          535億円 業務請負
10.グッドウィル・グループ   524億円 軽作業請負
       (週刊ダイヤモンド 12月11日号 より)

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[永久運動の設計] 大手業務請負会社の業務請負
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上位10社のうち日研総業、日総工産、グッドウィル・グループは
一般派遣ではなく業務請負です。

ここで、人材派遣と業務請負の違いについて簡単に触れておきましょう。
法律的には、人材派遣は労働者派遣法に基づく要員派遣契約、業務請負は
民法に基づく準委任契約です。

人材派遣と準委任の最も大きな違いは「誰が労働者へ業務の遂行方法に
関する指示を出すか」という点にあります。
人材派遣の場合、顧客が労働者へ指示・命令を出します。
業務請負の場合は、受託会社が指示・命令を出します。

ソフトウェア業界でも業務請負は非常に多く、量的には最も多い
契約形態です。
顧客とソフトウェア会社間で準委任契約を結び、社員が客先に常駐し、
現場で顧客からの注文を受けて作業をする形態です。
常駐しているソフトウェア技術者が顧客からの注文を受けて作業を
すること(準委任)と、派遣社員が顧客から業務の遂行方法に関する
指示を受けて作業すること(人材派遣)とは一見似ていますが、根本的な
違いがあります。これについては次号で論じます。

本号では、大手業務請負会社が製造、土木・建築、軽作業などで
行っている業務請負とソフトウェア業界の業務請負とは、契約類型
としては同じ準委任でありながら、背景も実態も大きく異なっている
ということを指摘します。

両者の特徴を列記します。

○大手業務請負会社の業務請負
[作業の中身] 専門性のない、マニュアル化された作業
[底辺の文化] 土木作業や港湾荷役作業、工場の構内請負の文化
[需要と供給] 供給(労働力)>需要(仕事量)
[ボリューム] 大量なオーダー、大量の労働者

○ソフトウェア業界の業務請負
[作業の中身] 高度に専門的な仕事、マニュアル化できない仕事
[底辺の文化] 一括請負の文化
[需要と供給] 供給<需要
[ボリューム] 1プロジェクトで必要な技術者数は少数、人材を供給する
      ソフトウェア会社も大量の技術者を抱えることはない。


大手業務請負会社の上記特徴は、大手人材派遣会社の特徴そのものです。
大手業務請負会社の多くは、指揮命令権をレンタルするのみで、
現場責任者も置かず、結果責任も取らないという点では、人材派遣会社
と同じです。
そして、この種の業務請負では、人材派遣同様、規模や範囲の経済が強く
はたらきます。大きい方が強いのです。

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[永久運動の設計] 「偽装請負」をする理由
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実態は人材派遣である業務請負を「偽装請負」と呼びます。

ではなぜ、大手業務請負会社は人材派遣ではなく業務請負という形を
とりたがるのでしょうか?

その理由は下記の3つです。

(1)人材派遣が認められていない業種があった
1986年に成立した労働者派遣法では、人材派遣が許されたのはわずか
13業務でした。
派遣法で認められていない業種は業務請負でやらざるを得なかったのです。
但し、数回の改正を経て、現時点では職種に関する規制はほとんど
無くなっています。

(2)人材派遣だと期間の制約がある
職種に関する規制はほとんど無くなりましたが、派遣期間の制約は
現在も多くの職種で残っています。
1年または3年以内と決められているのです。
もっと長期で契約したい場合は、業務請負でやらざるを得ないのです。

(3)業務請負の方が社会保険料を逃れやすい
人材派遣会社でも社会保険加入率100%の業者はほとんどないのが実情ですが、
人材派遣業は認可事業なので、悪質な業者は取り締まりが可能です。
それに対して、業務請負には規制法がないので、悪質な業者も多いのです。

> ある大手業務請負会社を例にとれば、労働者をグループ内の複数の
> 業務請負会社に登録させ、社会保険加入義務が生じない二ヶ月ごとに
> 契約する会社を変えていく。・・・(中略)・・・
> それでも社会保険の未加入問題が発覚した場合、会社をつぶしたり
> 社名変更して所在地も変えてしまう。
>             (週刊ダイヤモンド 12月11日号 より)

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次回以降の予告
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業務請負については論じたいことが幾つかあります。
下記の問題について、次号以降で論じます。

【問題1】
実際にはソフトウェア技術者一人が常駐して顧客から指示を受ける
ことも多い。これは実態として人材派遣ではないのか?

本文中では次のように表現した問題です。

> 常駐しているソフトウェア技術者が顧客からの注文を受けて作業を
> すること(準委任)と、派遣社員が顧客から業務の遂行方法に関する
> 指示を受けて作業すること(人材派遣)とは一見似ていますが、
> 根本的な違いがあります。これについては次号で論じます。


【問題2】
ソフトウェア会社の一括請負の人月見積もりをどのように考えるか?

第52号で次のように書いた問題です。

> 例えば、ハウスメーカに注文住宅の見積を依頼した場合、見積書の
> 大部分は「部品×数量」です。
> その住宅のために職人が何人働くかなどということはどこにも書かれ
> ていませんし、顧客もそのようなことを全く気にしません。
> 一方、ソフトウェア一括請負の見積の基本は昔も今も「この作業に
> 技術者が何日かかるか」です。
> つまり外見は工事請負契約ですが、一皮向けば役務の提供の契約である
> 面が見えてきます。

【問題3】
業務請負を中心とするソフトウェア会社の適正規模と最適な組織は?
一括請負を中心とするソフトウェア会社の適正規模と最適な組織は?


次号は、12月20日発行予定です。乞うご期待!!


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December 06, 2004

人材派遣業は指揮命令権のレンタル業

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_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
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第52号 2004/12/06
▼ まえがき
▼ [永久運動の設計] 今回は人材派遣を取り上げます
▼ [永久運動の設計] モノを売る商売、サービスを売る商売
▼ [永久運動の設計] 人材派遣業は指揮命令権のレンタル業
▼ [永久運動の設計] 人材派遣会社は大きい方が強い
▼ [永久運動の設計] ソフトウェア業界で影が薄い理由
▼ 次回以降の予告


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まえがき
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蒲生嘉達です。お疲れ様です。

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[永久運動の設計] 今回は人材派遣を取り上げます
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第51号で次のように予告しました。

> システム開発請負会社の最適規模は10年前と比べ、明らかに小さく
> なっています。
> しかし、何名が最適規模かという答えを出すためには、一括請負
> ビジネスと準委任請負ビジネスとを分けて考える必要があるでしょう。
>
> これは次号で論じます。

一括請負と準委任の違いは、「ソフトウェア業界 航海術」試読版
( http://kcode.jp/kcode/dl/k-base.pdf )「1.1 請負契約と委任契約」
を参照してください。

一括請負と準委任の適正規模を論じる前に、今回は少し回り道して
人材派遣について考えてみます。

--------------------------------
派遣
 任務を負わせて、他の地に行かせること(goo国語辞典)
 文例:特使を―する 
--------------------------------

我々は日常「派遣」という言葉を上記のように使います。
イラクに駐留している自衛隊も「派遣」されているのです。
したがって、準委任契約による常駐作業も「派遣」と言う場合があります。

しかし、今回解説する「人材派遣」はスタッフサービスやマンパワー
などが行っている「労働者派遣法に基づく一般派遣」です。

尚、株式会社 慶は特定派遣の免許は持っていますが、業務としては
行っていません。

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[永久運動の設計] モノを売る商売、サービスを売る商売
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自動車会社は自動車が、八百屋は野菜が、分譲マンション業者は
マンションが商品です。これらはモノの所有権を売買する商売です。

一方、モノの所有権ではなくサービス(役務)を提供する商売も
あります。
床屋は髪の毛を切ること、学習塾は学習指導、社会保険労務士は
労務関係のコンサルティングや手続き代行によって対価を得ます。
ソフトウェア会社が準委任契約でプログラムを作成したり、
ネットワーク構築したり、サーバ運用する場合も同じです。
これらにおいては、顧客からの報酬は提供したサービス(役務)
に対して支払われます。

本題からそれますが、ソフトウェアの一括請負の場合はもう少し複雑です。
納品物があるという点では、モノを商品としているかのように見えます。
納品と対価の支払いによって、プログラムの所有権が移転します。
しかし、ソフトウェアの一括請負には他のモノの販売とは違う特色が
あります。
例えば、ハウスメーカに注文住宅の見積を依頼した場合、見積書の
大部分は「部品×数量」です。
その住宅のために職人が何人働くかなどということはどこにも書かれ
ていませんし、顧客もそのようなことを全く気にしません。

一方、ソフトウェア一括請負の見積の基本は昔も今も「この作業に
技術者が何日かかるか」です。
つまり外見は工事請負契約ですが、一皮向けば役務の提供の契約である
面が見えてきます。

一括請負という契約については別の機会に論じましょう。


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[永久運動の設計] 人材派遣業は指揮命令権のレンタル業
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人材派遣会社は何を売っているのでしょうか?
顧客と人材派遣会社との派遣契約によって何が移転するのでしょうか?
それは社員に対する指揮命令権です。
雇用契約は人材派遣会社と社員との間で結ばれます。
雇用契約が結ばれた瞬間に人材派遣会社と社員との間で様々な権利・
義務が生じます。
例えば、社員には会社の指揮命令の下で労働を提供する義務が生じ、
会社には賃金を支払う義務が生じます。
また、会社には雇用保険や社会保険に加入する義務が生じます。

顧客と人材派遣会社との間で交わされる派遣契約とは、これらの権利・
義務の中で、会社の社員に対する指揮命令権(社員の側からすれば
労働を提供する義務)のみを切り離して、レンタルする契約なのです。

派遣契約は指揮命令権をレンタルする契約なので、派遣会社は社員が
派遣先で提供した労働に対する結果責任は負いません。
その労働は顧客の指揮命令によってなされたものだからです。
ソフトウェアの請負開発の場合、一括でも準委任でもソフトウェア会社に
瑕疵担保責任がありますが、人材派遣会社には瑕疵担保責任はありません。
派遣社員が顧客が満足できるパフォーマンスを発揮できなければ
顧客から「交換」を要求されることはありますが・・・。


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[永久運動の設計] 人材派遣会社は大きい方が強い
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人材紹介と人材派遣はともに人材を扱うビジネスでありながら、
規模や範囲の経済については対極に位置します。

規模や範囲の経済は人材紹介ではほとんどはたらきませんが、人材派遣
では強力にはたらきます。

人材というものの捉え方が対照的だからです。

人材紹介は人材の全人格的な個性を扱います。
一方、「顧客は派遣労働者を特定してはならない」というのが人材派遣の
建前です。
人材派遣では、人材を「経理事務経験者」「翻訳者」「OAインストラクター」
というようにその社員がもつ特定技能を抽象化したものとして捉えます。
つまり人材を、規格化し、分類し、交換することが可能なものとして扱います。
労働者派遣法は顧客が規格化された技能以外の要素(年齢、性格など)で
特定することを禁止しています。
したがって、顧客による事前面接も禁止されています。
(実際には、ほとんど全ての人材派遣会社が事前面接という違法行為を
行っていますが・・・。)

人材派遣会社の構成要素は次の通りです。
(1)大量なオーダー(人材派遣の世界では案件情報を「オーダー」と呼びます)
 を集める営業マン。
(2)派遣社員を集めるための大掛かりな人材募集。
(3)オーダーと派遣社員とをマッチングするコーディネーター。
(4)信用力をあげる立派なオフィス

(1)(2)(3)はオーダーと人材を規格化して流通させる行為です。
したがって、人材派遣会社には規模や範囲の経済が強くはたらきます。

> モノ・カネ・情報の流通に関しては、「規模の経済」「範囲の経済」が
> かつてないほど強力になってきています。
> (第50号 http://www.kei-it.com/sailing/50-041122.html より)

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[永久運動の設計] ソフトウェア業界で影が薄い理由
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しかしながら、人材派遣会社はソフトウェア業界では影の薄い存在です。
「Java技術者が50名足りない」と言っている現場でも「それでは
人材派遣会社に頼もう」という声は出てきません。

人材派遣会社には優秀なソフトウェア技術者はいないからです。
その理由の一つとして、ソフトウェア業界では需要が供給を大幅に
上回っているということがあげられます。
ソフトウェア技術者は労働者派遣法で守られなければならないほど
弱い存在ではないのです。

しかし、もう一つ重要な理由があります。
人材を規格化・分類・交換可能なものとして扱うという人材派遣会社の
本質がソフトウェア開発の本質と合わないのです。

> ソフトウェア職人はユーザや顧客が手にしたアプリケーションや
> システムの満足度によって評価されるのです。こういった考え方は、
> 資格によって分類された交換可能なエンジニアというコンセプトとは
> 対極に位置しているのです。
> (ピート・マクブリーン著「ソフトウェア職人気質」より)

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次回以降の予告
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次号以降で下記のテーマを取り上げます。
・システム開発受託会社の適正規模。(一括と準委任)
・差異性を創造し維持し拡大する方法。

次号は、12月13日発行予定です。乞うご期待!!


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