賃金決定の仕組み

July 18, 2006

賞与の基礎知識

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第136号 2006/7/17
▼ まえがき
▼ [賃金決定の仕組み] 賞与予算は成果が出る前に決まっている
▼ [賃金決定の仕組み] 赤になっても黒になっても予算どおり払う
▼ [賃金決定の仕組み] 成果は反映されるが、絶対評価ではない
▼ [賃金決定の仕組み] 現在主流となっている賞与制度
▼ [賃金決定の仕組み] 中小ソフト会社、ITベンチャーの賞与
▼ 次回以降の予告


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まえがき
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蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

今回は賞与について基本的な話をします。

「賃金決定の仕組み」シリーズに分類します。

「賃金決定の仕組み」シリーズを最初から読みたい方は、
「バックナンバー 賃金決定の仕組み」
http://www.kei-it.com/sailing/back_salary.html を参照してください。

または、ブログ( http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/ )の
左列にあるCategories「賃金決定の仕組み」をクリックしてください。

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[賃金決定の仕組み] 賞与予算は成果が出る前に決まっている
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7月14日(金)の日経新聞朝刊に「夏のボーナス2.0%増加」という記事
が載っていました。
上場企業と有力非上場企業の計4,323社を調査対象とした記事です。
下記はそこからの引用です。

> 伸び率は03年から3年連続で3%台だったが、今夏は2%台にとどまった。
> 特に夏のボーナスを春の賃金改定と切り離して交渉している企業は
> 支給額の伸び率が1%台に鈍化しており、直近の原油高や株価の動向が
> 影響したもようだ。


この中に「夏のボーナスを春の賃金改定と切り離して交渉している企業」
という言葉があります。

実は今でもほとんどの会社は、その期の賞与予算を春の賃金改定と
一緒に決めてしまうのです。
その際、前年度の会社の決算結果が重要指標となります。

「夏のボーナスを春の賃金改定と切り離して交渉している企業」に
しても、これは前年度の会社の決算結果に直近の会社全体の収益予想も
加味するという意味です。
前年度の会社の決算結果が最も重要な指標であることにはかわりは
ありません。

「賞与の本質は利益の分配」とよく言われます。
(例:http://www.primec.co.jp/system/bonus.php )

しかし、現実に世間で行われている賞与制度では、利益が出る前に
予算は決まってしまっているのです。


> その期の決算状況に応じて、ボーナスの予算を決めるという
> スタイルもなくはない。「よし、今期はみんなよくがんばって
> いるから、ボーナスは奮発しよう」という社長さんのイメージだ。
>  ・・・(中略)・・・
> ただこういった企業は、割合としては非常に少ない。
>
>       (城繁幸著「日本型「成果主義」の可能性」より)

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[賃金決定の仕組み] 赤になっても黒になっても予算どおり払う
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春に予算を立てたということは、現実に利益が出ても出なくても、
それだけ払うと従業員に約束したということです。
会社は基本的には予算どおり払う必要があります。
特に下げる場合には、頑強な抵抗を受けることになるでしょう。

直近の会社全体の収益予想を加味したとしても、上記日経の記事を
読んでも分かるとおり、たかだか1%程度の修正にすぎません。

借入してでも、赤字になってでも、払わなくてはならないのです。
会社の業績が非常に悪く、借入さえできない状況に至ったとき、
初めて大幅なカットとなります。


逆に予想よりも業績がUPした場合はどうでしょうか?

社員が上半期に必死に頑張り、予想よりも良い業績が達成できたと
しましょう。
その場合にも、社員が12月に受け取る賞与の総額は、春の段階で
決まった予算が基本となります。

会社は業績が悪い場合にも、春に立てた予算どおりの賞与を払います。
その代わり、業績が良かった場合にも、堅実な会社はその期には予算
どおり支払い、残った利益は将来に備えて内部留保します。
あるいは、業績が悪かったときに作った借入を返済します。
これはゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)とも関係することで、
企業としては正しい態度です。

「よし、今期はみんなよくがんばっているから、ボーナスは奮発
しよう」という社長の会社が少ないということは、そのような
気前のよい社長は長期的には生き延びて来なかったということかも
しれません。

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[賃金決定の仕組み] 成果は反映されるが、絶対評価ではない
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上記説明で注意しなければならない点を指摘しておきます。

(1)個人の成果はその期の賞与に反映される

春に立てた予算どおりに賞与を払うと言っても、それは総額の話です。
個人への配分は半期の個人の成果が反映されます。
そのような意味では、個人の成果はその期の賞与に反映されるのです。

しかし、総額が決まっているということは、絶対評価はあり得ない
ということを意味します。
たとえ評価の現場で絶対評価で付けたとしても、分配の段階では
限られたパイを相対評価で分け合うという構図になります。


(2)利益の分配という面もある

賞与予算を立てる際に前年度の会社の決算結果が重要な指標となります。
その意味では、その期の賞与は前期の利益の分配であるという面が
ないわけではありません。
しかし、直接的な分配ではありません。

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[賃金決定の仕組み] 現在主流となっている賞与制度
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従来から日本企業の賞与予算は会社の業績に敏感に連動していました。
そのような意味では、賞与は人件費を変動費化する強力な手段だった
のです。
しかし、個人の業績評価によって賞与に大きな差を付けることは
ありませんでした。
賞与支給額の差のほとんどは基本給、役職手当の差であり、評価の
差ではありませんでした。

> 年功序列の場合、報酬は「ポスト」という形で支払われてきた。
> だから賞与において大きな差は存在せず、定期昇給という形で、
> 基本給も揃って上昇し続けたのだ。報酬はいずれ出世という形で
> 支払われることになっていたからだ。
>
>        (城繁幸「日本型「成果主義」の可能性」より)


1993年頃から、いくつかの異なる動機から成果主義が導入され、
極端な差を付ける会社も出てきて、その後、成果主義の弊害が指摘され、
今は職能資格給ベースの相対評価に若干成果主義的味付けをしている
というのが主流だと思います。


7月14日(金)の日経新聞朝刊で「同期の支給格差「30%以上」8割超」
というタイトルの記事もありました。

> 同期入社の大卒社員の最高支給額と最低支給額の格差は「30%程度」
> と回答した企業が38.6%と最も多く、「50%程度」(18.6%)と
> 「10%未満」(16.2%)が続いた。


もしも25歳前後の同期の賞与の格差が30%だというなら、かなり大きい
と思いますが、これは30代、40代、あるいはそれ以上の同期も含めた
数字です。
30%程度の格差というものはそれほど大きいとは思えません。

賞与の計算は、通常は基本給をベースに行われます。
ある程度の年齢になると基本給にも30%程度の格差は付いてくるでしょう。

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[賃金決定の仕組み] 中小ソフト会社、ITベンチャーの賞与
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これまでお話ししてきたことは、比較的組織のしっかりした会社での
話です。

中小ソフトウェア会社、ITベンチャーの賞与は制度的に未整備、
検討が不十分、良く言えば、制度的に硬直化していません。


厳密な予算組みはありません。
春にその期の賞与予算を決めてしまうということもありません。
請負型や派遣型の中小ソフトウェア会社はまだ予算の立てようが
ありますが、ITベンチャー系は、毎月、毎年の変動が激しすぎて、
予算を立ててもすぐに現実と大きく乖離してしまいます。

社長も社員も、日常業務で精一杯で、時間をかけてしっかりとした
人事・給与制度を作り上げていくことができません。
経営者は人事・給与制度についての経験も知識も不足している上に、
関心もありません。

慶も、賞与制度を含めて、人事・給与制度はまだまだ不十分です。
私は下記の方向で改善していかなければならないと考えています。

・十分に裁量を持った管理職に対しては成果主義の強化。
・若年層では能力給ベースの相対評価。
・財務的にはより厳密な予算組み。
・賞与予算の配分権の管理職への委譲。
・新しい技術や分野への挑戦を促す仕組み作り。
・数値目標が有効な部門には数値目標を取り入れる。

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次回以降の予告
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次号以降では次のようなテーマを取りげていきます。

ゴーイング・コンサーンシリーズ:
・会社は継続しなくてもよいという考え方もある。
・メリーチョコレートを支えている人事制度。


技術系:
・グーグルの衝撃
  本を読むこと、ネットで読むこと
  ITバブルは詐欺だった
  ポスト産業資本主義化はIT革命によって引き起こされたのではない。

・メーカからの請負、エンドユーザからの請負
 (品質管理、検収、瑕疵担保責任の違い)
・オブジェクト指向再論
・PMBOK
・SEO対策

外国系:
・中国は脅威か?

財務系
・資産と費用

経営系:
・壊れ窓の理論

法務系:
・コンプライアンス
・執行役の裁量の範囲と取締役会の決定権

労務系:
・雇用契約、裁量労働制、個人事業主
・景気回復、新卒の採用難、2007年問題

営業系:
・売れる営業マン


次号は、7月24日発行予定です。

乞うご期待!!

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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
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June 05, 2006

管理職の深夜労働手当

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第130号 2006/6/5
▼ まえがき
▼ [賃金決定の仕組み] 労基法では管理職でも深夜労働手当はある
▼ [賃金決定の仕組み] 管理職手当とは、みなし労働手当
▼ [賃金決定の仕組み] 夜、横になってからも業務について考える
▼ [賃金決定の仕組み] 賃金規定に明記する必要がある
▼ 次回以降の予告


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まえがき
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蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

今週号では、管理職の深夜労働手当について解説します。

「賃金決定の仕組み」シリーズに分類します。

「賃金決定の仕組み」シリーズを最初から読みたい方は、
http://www.kei-it.com/sailing/back_salary.html を参照してください。

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[賃金決定の仕組み] 労基法では管理職でも深夜労働手当はある
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管理職の時間外手当について、社会保険労務士から次の説明を受けた
ことがあります。

> 時間外労働の適用除外者として、「労働者の従事する業務の性質
> または態様からみて、労働時間に関する法的規制を適用することが
> 必ずしも適当でない場合があり、
>
> 1.天候など自然的条件に左右される事業に従事するもの 
> 2.監督・管理の地位にある者、機密の事務を取り扱う者 
> 3.監視・継続的労働に従事する者で労働基準監督署長の許可を受けたもの
>  
> は適用除外」と労基法上、定められています。
>
> 尚、時間外労働、休日労働の適用除外の管理職の方でも、PM10時~
> AM5時までの深夜労働に関しては、25%以上増しの割増賃金の支払は
> 発生します。


労働基準法上、管理職(監督・管理の地位にある者)が時間外手当の
適用除外者であることは、よく知られています。
しかし、管理職でも深夜労働手当は払わなければならないこと
(上記説明での「尚、」以降)は、あまり知られていません。

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[賃金決定の仕組み] 管理職手当とは、みなし労働手当
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しかし、現実には管理職に深夜労働手当を払っていない会社は多いと
思います。

これは違法なのでしょうか?

社労士や労働基準監督署に質問すれば、即座に「違法」という回答が
返ってくるでしょうが、本メルマガでは「必ずしも違法ではない」
という説明をします。


そもそも管理職手当とは何でしょうか?

結論から言うと、管理職手当とは、深夜労働手当、時間外労働手当、
休日労働手当の「みなし労働手当」です。
管理職が1ヶ月にするであろう深夜労働、時間外労働、休日労働に
およその目星をつけて一定額で支給するというのが管理職手当
なのです。

多くの人は、「管理職になると責任が重くなるから管理職手当が付く」
つまり「管理職手当とは職務の責任に応じた報酬である」と考えて
います。

しかし、職能資格制度では基本給と役職手当が密接にリンクされて
います。
「責任が重くなるから基本給も上がる」とも言えるし、「基本給が
上がるから責任が重くなる」とも言えます。
職務の責任に応じた報酬は、全てではありませんが、かなりの部分、
基本給の中に含まれているのです。

責任等級制度や職務給制度ではそれがさらに徹底されます。
職務の責任範囲に応じて基本給を決めるのが責任等級制度、
職務内容に応じて基本給を決めるのが職務給制度だからです。

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[賃金決定の仕組み] 夜、横になってからも業務について考える
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「主任→係長→課長→部長」と役職が上昇し、役職手当がUPしていく
につれて、時間ではなく成果が求められます。

とは言っても、成果を上げるためには、普通は労働時間も増えます。
しかし、それは必ずしも社内での労働ではありません。
むしろ、社内で人と同じことをやっていても、人と違う成果は出ない
のです。

夜、横になってからも業務上の問題について考える必要も出てきます。

下記はマイケル・レヴィン著「「壊れ窓理論」の経営学」からの引用です。

> 執念を持たなければ失敗する。
> 夜、横になってからも業務の改善や顧客サービスの向上、目下の
> 壊れ窓の修理について考える。そうでなくては、自分の仕事を正しく
> こなしているとは言えないのである。

ここでの「壊れ窓」とは、小さな問題という意味です。
この言葉は経営者に対するものですが、管理職にもある程度
あてはまります。


このような深夜労働をどのようにカウントすればよいのでしょうか?
やはり「みなし」でいくしかないのです。

役職の上昇は、労働時間に関する裁量の拡大であり、したがって、
みなし労働時間の拡大なのです。

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[賃金決定の仕組み] 賃金規定に明記する必要がある
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先に

> 社労士や労働基準監督署に質問すれば、即座に「違法」という回答が
> 返ってくるでしょうが、本メルマガでは「必ずしも違法ではない」
> という説明をします。

と書きました。

「必ずしも」が付いているのは、「管理職手当にどの程度の深夜労働
手当、時間外労働手当、休日労働手当が含まれているのかが賃金規定に
明記されていれば」という条件付きだからです。

慶では、WEBシステム開発事業部と管理本部の賃金規定の改訂を行い、
今年7月1日に施行します。
そこには、管理職手当に含まれる深夜労働手当、時間外労働手当、
休日労働手当が明記されています。

ITサービス事業部の賃金規定改訂についても近日中に検討に入ります。

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次回以降の予告
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次号以降では次のようなテーマを取りげていきます。

技術系:
・グーグルの衝撃
 (本を読むこと、ネットで読むこと)
・OSS(オープンソースを持ち上げる人々、オープンソースの実態)
・Linux台頭とSUN
・メーカからの請負、エンドユーザからの請負
 (品質管理、検収、瑕疵担保責任の違い)
・オブジェクト指向再論
・PMBOK
・SEO対策

外国系:
・中国は脅威か?

法務系:
・コンプライアンス
・取締役と執行役員

労務系:
・雇用契約、裁量労働制、個人事業主
・景気回復、新卒の採用難、2007年問題

営業系:
・売れる営業マン


次号は、6月12日発行予定です。

乞うご期待!!

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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
「まぐまぐ!」での読者数は2006年6月3日現在、498名です。


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October 11, 2005

起業する若い人達へ

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第96号 2005/10/10
▼ まえがき
▼ [賃金決定の仕組み] 空洞化する大手ソフト会社
▼ [賃金決定の仕組み] 定着率が悪く、中途採用も難しい
▼ [賃金決定の仕組み] 起業する若い人達への苦言
▼ [賃金決定の仕組み] 新しいビジネスモデル対応型成果主義の可能性
▼ [賃金決定の仕組み] 次回以降の予告


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まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

第86号から成果主義型賃金制度をテーマとしています。

「賃金決定の仕組み」シリーズを最初から読みたい方は、
http://www.kei-it.com/sailing/back_salary.html を参照してください。

バックナンバーはブログでも公開しています。
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[賃金決定の仕組み] 空洞化する大手ソフト会社
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先週、M&A仲介を専門としている会社の営業マンが来社しました。
以下はその営業マンが語ったことの要約です。


 上場している大手IT企業の業績は現在下降気味です。
 ライブドアなどのIT系ベンチャー企業は一見好調ですが、彼らは
 実態はIT企業ではありません。
 ITサービスやシステム開発で儲けているわけではなく、金融で儲け
 ているのです。

 上場しているシステム開発会社は、知名度と信用があるので、
 仕事はいくらでも取れます。しかし、仕事をこなせる人がいません。
 大手システム開発会社でも仕事は常駐型が主流ですが、常駐させる
 技術者がいません。


そして、その営業マンは「実は、慶のように人がある程度いる中小
ソフト会社を買収したがっている上場企業があるんですが・・・」
と切り出しました。

買収の話はお断りしましたが、この話は、大手ソフトウェア会社が
人材面で非常に困っていることを示しています。

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[賃金決定の仕組み] 定着率が悪く、中途採用も難しい
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大手ソフトウェア会社に人がいない理由は下記の二つです。
・定着率が悪い。
・経験者の中途採用が難しい。

そしてこの二つの根っ子は同じなのです。


第83号「個人事業主が増えた理由」で、技術の標準化とPCの劇的な
高性能化・低価格化が個人事業主を増やしたと述べました。
( http://www.kei-it.com/sailing/83-050711.html 参照)

同じ理由から、転職も容易になりましたし、個人事業主に毛の
生えた程度の小規模な会社設立も容易になりました。

「うちは定着率が高いです」というソフトウェア会社の多くは、
「つぶしの利かない」技術を使って開発している会社です。
制御系に多いです。

ある程度の規模以上で、標準的な技術を使って開発している会社の
定着率はよくありません。
しかもようやく一人前になったレベルの人たちが辞めていきます。

彼らの中には、より待遇のいい会社の正社員になる人もいますが、
自由と独立を求めて、契約社員、個人事業主、起業という選択を
する人も少なくありません。

また、やはり同じ理由で、経験者の中途採用も難しくなっています。
よほど魅力的な待遇を示さないと経験者の中途採用は不可能ですし、
しかも、そのように高給を出して採用した技術者は必ずしも優秀では
ありません。
なぜなら、技術力に自信のある人ほど、個人事業主や起業の選択を
しやすいからです。

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[賃金決定の仕組み] 起業する若い人達への苦言
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ここで起業する若い人達にほんの少し苦言を呈しておきましょう。

純粋にプログラムが好きでプログラムに専念したい、プログラム
について様々な経験をしたい、また、報酬は個人売上に応じた
成果主義でもらいたいという理由で個人事業主になり、その延長線上で
会社を起こすことは理解できます。

しかし、ヒルズ族を夢見て、お金のためだけに起業したなら、後で
「こんなはずじゃなかった」と思うでしょう。

冒頭に紹介したM&A仲介業者が言うように、ヒルズ族はITサービスで
儲けているわけでも、システム開発で儲けているわけでもありません。
金融で儲けているのです。

ホリエモンの「起業しろ!」という言葉を真に受けて起業した若い
人たちは、残念ながら、ホリエモンのように金融で儲けることは
できません。
多少プログラムが書けても、ちょっとしたアイデアを持っていても、
稼げるお金というものは高が知れているのです。

仮に、彼がものすごく運がよく、(例えば株で大儲けをして)ヒルズ族の
仲間入りしたとしましょう。
喜びもつかの間、彼には地獄が待っているかもしれません。
現在ヒルズ族が我が世の春を謳歌していられるのは、バブル崩壊
以降の日本のデフレ経済が前提です。
日本経済がひとたびインフレに振れたとたんに、彼らは元気がなくなる
でしょう。
インフレの時に元気だったダイエーがデフレになって潰れたのと
ちょうど逆のことが、ヒルズ族にも早晩起きる可能性が高いのです。

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[賃金決定の仕組み] 新しいビジネスモデル対応型成果主義の可能性
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今度はソフトウェア会社の側から見てみましょう。

技術者が自由と独立を夢見て起業することが自然なことなら、それを
制度として積極的に認めていくべきではないでしょうか?

その一つの方向は、個人事業主のエージェントになるという方向です。
これについては、第87号「ICグループは吉本興業や大野事務所に学べ」
( http://www.kei-it.com/sailing/87-050808.html )
を参照してください。

もう一つは第95号で述べた「新しいビジネスモデル対応型の成果主義」
( http://www.kei-it.com/sailing/95-051003.html 参照)の発展型です。

「新しいビジネスモデル対応型の成果主義」で役職者の責任と権限を
明確に定義していくと、その延長線上に横請け型の分社化があるような
気がします。
(横受け型アウトソーシングについては第78号を参照してください。
http://www.kei-it.com/sailing/78-050606.html


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[賃金決定の仕組み] 次回以降の予告
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次号は次のようなテーマで書こうかなと思っています。

・インターネットで稼ぐことは何故難しいか?


次号は、10月17日発行予定です。

乞うご期待!!


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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
「まぐまぐ!」での読者数は平成17年9月24日現在、428名です。


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October 03, 2005

新しいビジネスモデル対応型成果主義

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第95号 2005/10/03
▼ まえがき
▼ [賃金決定の仕組み] 総人件費抑制目的型の成功の条件
▼ [賃金決定の仕組み] 新しいビジネスモデル対応型成果主義
▼ [賃金決定の仕組み] 管理職ポストへの登用、降格の仕組みが中心
▼ [賃金決定の仕組み] 次回以降の予告


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まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

第86号から成果主義型賃金制度をテーマとしています。
このテーマはあと数回続きそうなので、また、一旦終了しても、
断続的に続きそうなので、「永久運動の設計」シリーズから独立させて
「賃金決定の仕組み」シリーズとしました。

「賃金決定の仕組み」シリーズを最初から読みたい方は、
http://www.kei-it.com/sailing/back_salary.html を参照してください。

バックナンバーはブログでも公開しています。
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[賃金決定の仕組み] 総人件費抑制目的型の成功の条件
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城繁幸氏は「日本型『成果主義』の可能性」(東洋経済新報社)で
成果主義を導入する目的は、大きく分けると次の二つのパターンになる
と指摘しています。

(1)総人件費を抑制し、優秀な人材にのみ報いるシステムをつくる。
(2)優秀な人材をどんどん抜擢し、新しいビジネスモデルに対応する。


成果主義を導入する目的としてよく言われることは(1)の方です。
例えば次のように。

 年功制や職能資格制度は給料が基本的に右肩上がりになる。これらは、
 多くの日本企業が右肩上がりに成長していた時代にはうまく機能したが、
 バブル崩壊以降、企業業績が低迷する中では維持できなくなってきた。
 一方、企業としての競争力強化は以前にも増して強く求められている。
 そのため、総人件費の抑制を図り、且つ、成果を出した人にはより多く、
 出していない人にはより少なく配分すべきだ。

このタイプの成果主義については、多くの論者が「賃下げの口実
として成果主義を悪用している」と批判しています。

しかし、城繁幸氏は会社の状況によっては、総人件費抑制目的の
成果主義導入も必要な場合があり、また、それが成功する場合もあると
言っています。そして、下記が成功の条件です。

> 会社の財務状況から社長の給与まで、一定の情報は社員に公開すべきだ。
> ・・・(中略)・・・
> 「会社の置かれている状況から考えて、賃金体系の抜本的な見直しは
> 避けられない」ということを、従業員にも納得してもらうことが、
> 制度見直しの第一ステップだ。
> そのうえで世代間のギャップが発生しないよう、すでに高い賃金を
> 得ている世代の基本給の見直しも必須だ。
>
>        (城繁幸著「日本型『成果主義』の可能性」より)

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[賃金決定の仕組み] 新しいビジネスモデル対応型成果主義
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一方、(2)の「優秀な人材をどんどん抜擢し、新しいビジネスモデルに
対応する」は、正しく慶が目指すべき方向です。

第85号「M&Aが大好きな会社」で、ポスト産業資本主義の利益の源泉
である「違い」の耐用年数が短いが故に金持ち企業はM&Aに狂奔する
という話を書きました。
( http://www.kei-it.com/sailing/85-050725.html 参照)

お金の無い中小企業は、金持ち会社がM&Aでやることを社内で
やらなければなりません。
金持ち会社が有望なシーズを持っている小さな会社を札束で買い漁る
のに対し、お金の無い中小企業は社内で次々とシーズを生み出さな
ければならないのです。

そして、第85号では書きませんでしたが、M&Aはそれほどいいもの
ではありません。M&Aに成功した後のその事業の成功確率は決して
高いものではありません。
もしも可能なら社内で生み出す方がよいのです。

慶はこれまでに多くのビジネスを立ち上げて来ました。
・自社製Javaフレームワークによる請負開発事業
 ( http://www.kei-ha.co.jp )
・ITサービス事業 ( http://www.kei-it.com )
・人材紹介事業 ( http://www.k-bank.jp )
・携帯&PC ECサイト事業 ( http://kcode.jp/kcode/index.html )
などです。

どれも新しいビジネスモデルではなく、既存のビジネスモデルです。
しかし、どれも他社とは一味違っていることは確かです。

今後も様々な新しいビジネスモデルを立ち上げていかなければなりません。
なぜなら、岩井克人氏が言うように、ポスト産業資本主義の時代とは、
まさに意識的な違いからしか利益が生まれない時代であるからです。

それを支える仕組みとして、新しいビジネスモデル対応型の成果主義が
あります。

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[賃金決定の仕組み] 管理職ポストへの登用、降格の仕組みが中心
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新しいビジネスモデル対応型の成果主義について、城繁幸氏は次の
ように説明しています。

> 「新しいビジネスモデル対応型の成果主義」を目指す場合、極端な話、
> 一般従業員は目標管理などやる必要はまったくない(従来の能力給
> ベースの相対評価で十分だ)。
> もともと、目標管理制度は「十分な裁量を持ったポストにある人間向き」
> の評価制度だ。
> だからそういったポストにある人間には、常に成果を求め、地位に
> 甘んじることがないシステムをつくることが最大の課題になる。
> その場合、管理職ポストへの登用、降格の仕組みが中心であって、
> けっして一般従業員の成果だの目標だのというテーマではないはずだ。
>
>        (城繁幸著「日本型『成果主義』の可能性」より)

私も全く同感です。

付け加えるなら、「十分な裁量を持ったポストにある人間」とは、
ビジネスモデルの責任者であり、大企業では課長クラスでしょうが、
中小企業では事業部長、部長クラスです。

また、ここで求められる成果は売上・利益の大小だけではありません。
ビジネスモデルの社会的な価値や技術的な価値も含まれています。

そして、管理職ポストへの登用の仕組みは、正社員だけでなく、
契約社員、個人事業主にも開かれているべきです。
もしもその人にアイデアと意欲があるなら・・・。

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[賃金決定の仕組み] 次回以降の予告
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次号以降は次のようなテーマで書く予定です。

・成果主義のまとめ
・社内起業

あるいは、久々に技術的なテーマを取り上げるかもしれません。
例えば、

・オープンソース


次号は、10月10日発行予定です。

乞うご期待!!

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September 26, 2005

職能資格化した年俸制

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第94号 2005/09/26
▼ まえがき
▼ [お知らせ] 新会社法研修会に無料ご招待(残席わずか)
▼ [賃金決定の仕組み] 職能資格化した年俸制
▼ [賃金決定の仕組み] 真性年俸制 vs. 日本型年俸制
▼ [賃金決定の仕組み] 慶のWEBシステム開発事業部
▼ [賃金決定の仕組み] 次回以降の予告


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まえがき
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[お知らせ] 新会社法研修会に無料ご招待(残席わずか)
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慶が所属している業界団体「羅針盤21」http://r-21.jp/ で、
新会社法をテーマとした研修会を行います。
本来は羅針盤21の会員しか出席できませんが、本メルマガの読者を
無料でご招待いたします。


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【日時】10月28日(金)15:00~17:00
【場所】トスラブ市ヶ谷アルファーロ
http://www.its-kenpo.or.jp/its_2/kenshin/itigaya_kaigisitu/index.html

【テーマ】税理士による新会社法解説
【講演会内容】
(1)有限会社制度の廃止、最低資本金制の撤廃によるメリット・デメリット
(2)会計参与制度の意義及びポイント

【講師からのコメント】
新会社法そのものの範囲が広範に渡るので、今回は2時間の中で
上記二点にポイントを絞り、中小企業において影響のありそうな
部分を会計・税務面などから追ってみたいと考えてます。
また、中小企業の会計に関する指針(草案)というものが公認会計士協会、
税理士連合会などから出されているので概要程度ですが、ご紹介してみます。

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私もこの部分は不勉強なので、非常に楽しみにしています。


聴講を希望される方は、office@kei-ha.co.jp にメールでお申し込み
ください。
人数に限りがございますので、お早めに!

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[賃金決定の仕組み] 職能資格化した年俸制
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今週号では年俸制についてお話ししましょう。

多くの人は年俸制に次のようなイメージを抱いています。

・プロ野球の選手のように今シーズンの成績を基準にして、翌シーズンの
 年俸を決定する制度。
・成績が良ければ年俸は毎年グングンあがるが、悪ければ大幅にダウンする。

しかし、現在多くの日本企業で行われている年俸制は、上記イメージとは
かなり違います。
いわば職能資格化した年俸制なのです。

以下の説明では、米国企業で行われている本来の年俸制を「真性年俸制」、
多くの日本企業が採用している年俸制を「日本型年俸制」と呼びます。


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[賃金決定の仕組み] 真性年俸制 vs. 日本型年俸制
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【年俸1本固定型と分離変動型】

真性年俸制では、
(1)前年の成果に応じて年俸を固定的に決めます。
(2)賞与も役職手当も職務手当もなく、年俸1本です。

但し、(2)は、年俸制以前の問題です。
一般的な米国企業では、日本企業のように定期的な賞与はありません。
また、もともと職務給なので、基本給と役職手当・職務手当を分離する
という発想もありません。
例えばITマネージャならそのITマネージャ職の職務内容を詳細に定義して、
その職務に対して値段をつけるので、基本給と役職手当・職務手当は
一体なのです。
(職能給だと「その人に対する値段(基本給)+職務に対する手当」という
発想が出てきます。)


一方、日本型年俸制では、業績を半期ごとに評価し、賞与に反映させます。
つまり、年俸といっても変動するのです。
また、年俸以外に役職手当や職務手当を別途設ける会社もあります。
つまり、年俸と役職とを分離しているのです。


【年俸ダウンの有無】

真性年俸制では成果が出なければ、来期の年俸は下がります。
もっとも米国系銀行などでは年俸ダウンより先に、解雇されるかも
しれませんが・・・。

一方、日本型年俸制では建前上は年俸ダウンはあり得ますが、実際には、
よほどのことが無い限り、年俸はダウンしません。
また、たとえダウンしたとしてもその幅は大きなものではありません。

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[賃金決定の仕組み] 慶のWEBシステム開発事業部
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真性年俸制の背後には、職務給制度・成果主義・目標管理制度があり、
日本型年俸制の背後には職能資格制度があります。
(職能資格制度については、第88号、第89号を参照してください。
 http://www.kei-it.com/sailing/88-050815.html
 http://www.kei-it.com/sailing/89-050822.html )


第87号「慶の事業部」で述べたとおり、慶のWEBシステム開発事業部は
社内持ち帰り型の一括請負開発を中心とする事業部です。
http://www.kei-it.com/sailing/87-050808.html

そのWEBシステム開発事業部では年俸制を採用しています。
やはり日本型年俸制です。


次号では、慶WEBシステム開発事業部や中小ソフトウェア会社の実情を
踏まえて、年俸制についてもう少し掘り下げます。

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[賃金決定の仕組み] 次回以降の予告
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次号以降は次のようなテーマで書く予定です。

・中小ソフトウェア会社と年俸制
・中小ソフトウェア会社と目標管理制度
・中小ソフトウェア会社と責任等級制度
・中小ソフトウェア会社とと成果主義


次号は、10月3日発行予定です。

乞うご期待!!

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September 20, 2005

能力と成果の関係

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_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
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第93号 2005/09/19
▼ まえがき
▼ [賃金決定の仕組み] 能力と成果の関係
▼ [賃金決定の仕組み] 能力主義の良さ
▼ [賃金決定の仕組み] でも、本当に潜在能力を正しく評価できるの?
▼ [賃金決定の仕組み] 目からウロコ的な現実解
▼ [賃金決定の仕組み] 次回以降の予告


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まえがき
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[賃金決定の仕組み] 能力と成果の関係
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今週号では、能力主義と成果主義の違い、能力と成果の関係について
お話しします。
第92号での【質問4】(↓)の答えでもあります。

> 例えば、社員から下記の質問を受けたら、経営者や人事責任者は明確に
> 答えられるでしょうか?
> ・・・(中略)・・・
>
> 【質問4】
> 評価の要素となっている「能力」「成果」「やる気」「プロセス」等
> について明確に説明してください。
>
> ( 第92号 http://www.kei-it.com/sailing/92-050912.html 参照)

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[賃金決定の仕組み] 能力主義の良さ
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能力主義と成果主義の違いは、一般には、次のように説明されます。

・報酬を潜在能力によって決めるのが能力主義
・報酬を顕在化した成果で決めるのが成果主義


もしも本当に潜在能力を正しく評価できるなら、能力主義の方が
優れています。理由は次のとおりです。

成果は、運、タイミング、上司との相性、外部環境といった本人には
いかんともしがたいことに大きく左右されます。
たまたま運悪く実力を発揮できない人に、少しだけ評価を低くして
「もう少し頑張れメッセージ」を送ることはよいでしょう。
しかし、メッセージの限度を超えた低い評価をしてしまうと、その人は
やる気を無くし、最悪の場合、会社を辞めてしまいます。

短期的な成果ばかりが評価されると、中長期的にかけがえのない知識や
能力を保有する優秀な人材を流出させることになりかねないのです。

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[賃金決定の仕組み] でも、本当に潜在能力を正しく評価できるの?
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先に「もしも本当に潜在能力を正しく評価できるなら、能力主義の方が
優れています」と書きました。
「もしも本当に潜在能力を正しく評価できるなら」の部分が重要です。


職能資格制度とは、「報酬を職務遂行能力によって決める制度」です。
(第88号 http://www.kei-it.com/sailing/88-050815.html 参照)
したがって、成果主義ではなく、能力主義です。

それ故、職能資格制度は、潜在能力の評価の難しさという問題を
抱え込んでいます。

潜在能力の評価は、顕在化した成果の評価と比べて、主観的で曖昧に
なりがちです。
「彼は成果はあまり出していないけど実力は付いてきたと私は思う」
という類の評価を許してしまうからです。
曖昧さを排除できないが故に、職能資格制度は本来能力主義を指向して
いるにもかかわらず、逆に年功的になりやすいのです。
(第89号「職能資格制度の昇格が年功的である理由」
http://www.kei-it.com/sailing/89-050822.html 参照)


能力評価の主観性と曖昧性を排除するために米国で開発された
コンピタンシーという手法もあります。
能力などを裏付ける客観的な行動特性に着目する手法です。
例えば売れる営業マンの行動特性を調べて、それから評価項目を作成する
手法です。

しかし、これは複雑過ぎて、中小ソフトウェア会社には向かないでしょう。

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[賃金決定の仕組み] 目からウロコ的な現実解
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能力と成果の関係、能力評価と成果評価の方法について、蒔田照幸氏は
「デフレに克つ給料・人事」で、目からウロコ的なシンプルな主張を
展開しています。次のようなものです。


(1)賞与はプロセスと成果、定期昇給・昇格昇進は能力

まず、賞与と定期昇給や昇格昇進のときの評価対象を明確に区別します。

【賞与時における評価対象】
過去6ヶ月間の仕事のプロセスと成果。

【定期昇給における評価対象】
これから1年間仕事上で見せてくれるであろう能力。

【昇格昇進における評価対象】
1年間という短い期間ではなく、もっと長期間にわたって能力を発揮
してくれるだろうかということ。

賞与時にはプロセスと成果のみ問題とし、定期昇給と昇格昇進で初めて
能力を問題とするのです。
賞与時のプロセス評価も、顕在化している事実と結果に基づいて行います。
また、やる気もプロセスの一部として評価対象となります。


(2)成果と能力の関係

成果と能力の関係も実にシンプルです。
1年間の成績(成果+プロセス)で能力評価をするのです。

例えば、
・夏季と年末の賞与での評価がBだったら、定期昇給における能力評価はB。
・夏季と年末の賞与での評価がCだったら、定期昇給における能力評価はC。
というように。

過去1年間でBの成績(成果+プロセス)を出しているなら、将来の
1年間でもBの成績(成果+プロセス)を出すであろうと仮定し、
その仮定こそ潜在能力だと考えるのです。

では、夏季と年末で賞与の評価が違ったら、どうすればよいのでしょうか?
例えば、夏季はB、年末はAというように。
その場合は、評価者やあるいはその上司から意見を聞いて理由を見極め、
能力評価を決定すればよいのです。


これが現実解だと私は思います。

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[賃金決定の仕組み] 次回以降の予告
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次号は次のようなテーマで書く予定です。

・年俸制とは何か?
・目標管理制度とは何か?
・責任等級制度とは何か?
・ソフトウェア会社と成果主義

次号は、9月26日発行予定です。

乞うご期待!!

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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
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September 12, 2005

昇給は絶対評価?相対評価?

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第92号 2005/09/12
▼ まえがき
▼ [賃金決定の仕組み] 昇給評価は絶対評価か?相対評価か?
▼ [賃金決定の仕組み] 建前は絶対評価、でも、何となく相対評価
▼ [賃金決定の仕組み] 定期昇給の目的は会社全体の業績向上
▼ [賃金決定の仕組み] 競争が目的なので、相対評価
▼ [賃金決定の仕組み] 次回以降の予告


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まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

第86号から成果主義型賃金制度をテーマとしています。
このテーマはあと数回続きそうなので、また、一旦終了しても、
断続的に続きそうなので、「永久運動の設計」シリーズから独立させて
「賃金決定の仕組み」シリーズとしました。

「賃金決定の仕組み」シリーズを最初から読みたい方は、
http://www.kei-it.com/sailing/back_salary.html を参照してください。

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[賃金決定の仕組み] 昇給評価は絶対評価か?相対評価か?
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第90号、第91号では、高橋伸夫著「虚妄の成果主義」を参考にして
根本的な話をしました。


今週号からはより具体的な問題について考えてみます。

例えば、社員から下記の質問を受けたら、経営者や人事責任者は明確に
答えられるでしょうか?

【質問1】
昇給評価は絶対評価ですか?それとも相対評価ですか?

【質問2】
管理職手当って何ですか?
責任が重いから手当が付くんですか?
でも、責任が重いから基本給が高いんでしょう。
あえて手当にする理由は何ですか?
たまにポケットマネーでおごるから手当が付くんですか?

【質問3】
ポストが限られているから、長年真面目に働いても、全員課長に
なれるわけではないですよね。
たとえ課長に昇進できなくても、せめて昇格できる職能資格制度
の方がよいのではないでしょうか?
(職能資格制度については、http://www.kei-it.com/sailing/89-050822.html 参照)

【質問4】
評価の要素となっている「能力」「成果」「やる気」「プロセス」等
について明確に説明してください。


今週号では「質問1」について考えます。


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[賃金決定の仕組み] 建前は絶対評価、でも、何となく相対評価
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職能資格制度も目標管理制度も建前では絶対評価です。
職能資格制度の場合、職能要件定義に規定されている要件を満たせば、
全員、昇格します。それによって、昇給します。
目標管理制度では、目標を達成した人は全員が高い評価を受けます。

評価をABCの3段階評価とすると、ABCの割合、つまり定員が
決まっていないのです。

しかし、読者の中で管理職として部下の昇給評価をした人ならお分かり
でしょうが、ほとんどの会社では、建前は絶対評価ですが、実際には
相対評価をやっています。
それも、建前は絶対評価なので、ABCの割合を明確にした相対評価
ではなく、何となく全体のバランスとって、何となく相対評価を
しています。
それでいて誰も「相対評価が正しい」とは言いません。

成果主義を標榜している会社でも、そのほとんどが、「建前は絶対評価、
実態は何となく相対評価」です。

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[賃金決定の仕組み] 定期昇給の目的は会社全体の業績向上
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私が「デフレに克つ給料・人事」(蒔田照幸著 文春新書)が面白いと
思った理由の一つは、はっきりと「昇給評価は相対評価でやるべきだ」
と断言している点です。

同書では「原則3段階で等級別にA評価が25%、B評価が55%、C評価は20%。
そして特に突出して優れた成績を残した者はS評価、全然仕事がダメで
あった者はD評価」と比率も明示しています。
(「A評価が20%、B評価が60%、C評価は20%」でない理由もあるのですが、
それは本メルマガでは割愛します。)


蒔田氏は、一方で、「賞与は成績評価直結型の各人別配分式でやるべきだ」
とも言っています。
賞与の本質は「利益の分配」だからです。

それに対し、定期昇給の目的は「利益の分配」というよりも、
「会社全体の業績向上」だと、蒔田氏は主張します。

> 定期昇給をする最終的な目的は、会社の業績向上のため、つまり会社が
> 儲けるためなのである。
>          「デフレに克つ給料・人事」(蒔田照幸著)より


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[賃金決定の仕組み] 競争が目的なので、相対評価
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なぜ、定期昇給が「会社全体の業績向上の仕組み」なのでしょうか?

定期昇給における各評価は、会社から社員に発せられた次のような
激励メッセージです。

 S評価:この次もS評価になるように頑張ってほしい。
 A評価:良い成績だったけれどS評価者もいる。ここを伸ばしてさらに
     頑張ってほしい。
 B評価、C評価:来期はここを直してA評価をとれ
 D評価:死に物狂いで頑張って、せめてB評価をとってほしい

この激励と競争の仕組みがうまく機能するためには、下記が前提と
なります。

・定期昇給は毎年やる。
・たとえD評価者であっても若年層はほんの少し昇給させる。
・S評価者は他の評価者よりもUPするが、その幅は極端に大きくはない。

そして、競争が目的なので、相対評価なのです。


読者はここまで読んで、第90号で言及した、「虚妄の成果主義」で
紹介されている実話を思い出さないでしょうか?
ある年に、給料に数百円の違いをつけられて、一方は自分の方が
評価されていると張り切り、他方はあいつには負けれないと頑張り、
二人して出世街道をばく進し、同時に取締役になった時点で給料が
同じになったという話です。
( http://www.kei-it.com/sailing/91-050905.html 参照)


蒔田氏は「年功型」を批判し、「実力主義給料」を提唱していますが、
日本型年功制の良い部分は、それをより明確化して受け継いでいると
言えます。


慶のスタッフ部門の定期昇給も基本はこの方針でいくべきだと思います。

但し、技術部門は少し違います。
この点については、次号以降で説明します。

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[賃金決定の仕組み] 次回以降の予告
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次号は次のようなテーマで書く予定です。

・年俸制とは何か?
・責任等級制度とは何か?
・成果主義とは何か?
・ソフトウェア会社と成果主義

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September 05, 2005

未来の付き合いの長さ故

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第91号 2005/09/05
▼ まえがき
▼ [賃金決定の仕組み] 「虚妄の成果主義」で面白かった二つの点
▼ [賃金決定の仕組み] 日本型年功制:会社固有の熟練を身につけようとする
▼ [賃金決定の仕組み] 日本型年功制:競争心をあおるのに有効
▼ [賃金決定の仕組み] これから先の未来の付き合いが長ければこそ
▼ [賃金決定の仕組み] アクセルロッドの理論は幅広い応用が可能
▼ [賃金決定の仕組み] 次回以降の予告


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まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

第86号から成果主義型賃金制度をテーマとしています。
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[賃金決定の仕組み] 「虚妄の成果主義」で面白かった二つの点
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高橋伸夫著「虚妄の成果主義」で非常に面白かった点が二つあります。
一つは第90号「給与は動機づけの中心ではない」「人事面での基本的な指針」
で述べたことです。重要なことなので、復習しておきましょう。

 給与や作業条件は、生産性や職務満足よりも欠勤・離職と密接に
 結びついています。
 つまり、給与や作業条件が悪いと欠勤・離職が増えます。
 しかし、給与や作業条件を良くしても、生産性や職務満足にはあまり
 影響がありません。
 生産性向上や職務満足をもたらすものは、自分が有能であるという感覚、
 自己決定度、そして、将来への見通しです。


二つ目は、高橋伸夫氏が日本型年功制を支持する根拠の一つとして、
「これから先の未来の付き合いが長ければ、人は紳士的で寛容になる」
ということを挙げている点です。

それについて語る前に、日本型年功制の良さとして、一般に指摘
されていることをお話ししておきましょう。

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[賃金決定の仕組み] 日本型年功制:会社固有の熟練を身につけようとする
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日本型年功制の利点として、まず第一に挙げられることは、
「社員が会社固有の熟練やノウハウを身につけようと努力する」
ということです。

> 将来会社を解雇されたり、給与を大幅に減額される可能性があったら、
> 会社に言われるままにキャリアを積んで、会社のなかでしか役に
> 立たない職業能力を身につけるよりも、他社で通用する職業能力を
> 身につけておいたほうがずっとましだと多くの労働者は考えるだろう。
>          (森本卓郎著「リストラと能力主義」より) 

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[賃金決定の仕組み] 日本型年功制:競争心をあおるのに有効
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日本型年功制の良さとして、次に挙げられることは、「社員間の競争心
をあおるのに非常に有効なシステムである」ということです。

これは読者にとっては意外なことかもしれません。
日本型年功制の特徴は「ある程度の年齢になっても賃金格差をつけない
ということ」(森本卓郎氏)です。

その特徴が、何故、「社員間の競争心をあおるのに非常に有効」に
なるのでしょうか?
普通に考えると、成果主義を導入し、大きな賃金格差をつける方が、
競争心をあおるような気がします。

しかし、人間の心理というものは、そのように単純なものではありません。

大きな賃金格差がある中で、低い評価を受けた側はやる気を失って
しまいます。
「全員のインセンティブを高めようと思ったら、いつでも逆転できると
思わせる小さな格差をつけるほうがはるかに有効なのだ」(森本卓郎氏)

また、日本型年功制の下では、同期のライバルとのほんの少しの昇給、
昇進の差が、猛烈な競争心をあおり立てるのです。
高橋伸夫氏は「虚妄の成果主義」で次のような、少し感動的な実話を
紹介しています。

 かつて年功序列的と揶揄された会社に、同期で優秀な新入社員が
 二人入ってきた。数年たった時、理由はよくわからないのだが、
 月給で数百円差がついていることに気がついた二人は、一方は自分
 の方が評価されていると張り切り、他方はあいつには負けれないと
 頑張り、二人して出世街道をばく進する。
 結局、たった数百円とはいえ、この差がついたままで二人は同時に
 取締役まで駆け上がり、ようやく月給が同じになる。

そして、高橋伸夫氏は「より年功序列的であればあるほど、給料の差が
競争心をあおることになる」と指摘します。

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[賃金決定の仕組み] これから先の未来の付き合いが長ければこそ
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さて、冒頭に述べた、「虚妄の成果主義」で非常に面白かった点の
二つ目に戻りましょう。

高橋伸夫氏は「虚妄の成果主義」の中で、日本型年功制を支持する
根拠として、「これから先の未来の付き合いが長ければ、人は紳士的で
寛容になる」ということを挙げています。

「これから先の未来の付き合いが長ければ、人は紳士的で寛容になる」
「これから先の未来の付き合いが長ければ、敵同士も協調する」
という考え方は、アクセルロッドの「ゲーム理論をとり入れた進化生物学」
の理論によるものです。
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4623029239/250-2149696-3733038 参照)

「その場限りの付き合いであるなら、人はずるいことをするが、
これから先の未来の付き合い(過去の付き合いではない)が長ければ、
人は協調的になる。
裏切ったら、次は自分が裏切られるから、姑息なことはしない。
自分のことだけでなく、相手のことも考えるようになる。
一人勝ちではなく、共存共栄を考えるようになる。
あるいは、そのような戦略をとった人が生き延び、繁栄する」
という理論です。

高橋伸夫氏は、終身雇用だとこれから先の未来の付き合いが長く
なるから、組織内で協調行動が生まれると主張しています。

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[賃金決定の仕組み] アクセルロッドの理論は幅広い応用が可能
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私はアクセルロッドの理論は、非常に幅広く応用できると思っています。

これは、慶と社員の関係だけでなく、慶と個人事業主、慶と協力会社、
慶と顧客との関係、さらには業界団体の存在意義にも応用できる理論だと
思っています。

「保存できないエディタ」シリーズは、請負契約と実際の開発作業との
軋轢について扱っているシリーズですが、
( http://www.kei-it.com/sailing/back_editor.html 参照)
書いていて行き詰まりを感じて、現在お休みしています。
「これから先の未来の付き合いが長ければ、敵同士も協調する」
という理論は、ここでも突破口になるかもしれないと考えています。

会社と社員、社員同士、顧客と会社、会社と協力会社、ライバル会社同士
という利害関係が異なる者同士が、未来の付き合いの長さを前提にして
対立しながら協調するということは、日本人は得意であり、日本が米国、
中国、インドなどに負けないためには、それが不可欠だという展開も
考えています。

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August 29, 2005

人事の基本指針

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第90号 2005/08/29
▼ まえがき
▼ [賃金決定の仕組み] 給与は動機づけの中心ではない
▼ [賃金決定の仕組み] 人事面での基本的な指針
▼ [賃金決定の仕組み] 個人事業主と整合性のある人事システム
▼ [賃金決定の仕組み] スタッフ部門に最適の賃金制度
▼ [賃金決定の仕組み] 次回以降の予告


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まえがき
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最近、賃金制度関係で下記の3冊の本を読みました。

(1)虚妄の成果主義 高橋伸夫著 日経BP社
(2)リストラと能力主義 森本卓郎 講談社現代新書
(3)デフレに克つ給料・人事 蒔田照幸著 文春新書

3冊とも非常に参考になりました。
今週号ではこの3冊について少し詳しく書きます。


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[賃金決定の仕組み] 給与は動機づけの中心ではない
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「虚妄の成果主義」は極めて根本的な問題を扱っていました。

我々はついつい「給与や作業条件を良くすれば、職務満足度が高まり、
生産性も向上する」つまり「給与や作業条件が動機づけの中心である」と
考えてしまいます。

高橋伸夫氏はこれを真っ向から否定します。
給与や作業条件は欠勤・離職(参加の意思決定)とは密接に結びついて
いるが、生産性(生産の意思決定)や職務満足とは関連がないと主張します。
給与や作業条件は、「もっぱら職務不満足を予防するための環境的要因」
だと言うのです。

これは我々の日常的な観察と一致します。
「給料が低いから会社を辞めた」という話はよく聞きます。
そして、給料が高ければ確かに離職率は低下するでしょう。
しかし、給料の高い会社の人たちが職務に満足していて、生産性も高く、
創造性を発揮しているかというと必ずしもそうではありません。
現実にはその逆ケースの方も多いのです。

「仕事はつまらないが、給料はそこそこもらえるし、安定しているから
辞められない。仕事は会社から文句を言われない程度にやっている」
という話もよく聞きます。

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[賃金決定の仕組み] 人事面での基本的な指針
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では、何によって人は職務に満足し、生産性を高め、創造性を発揮する
のでしょうか?

高橋伸夫氏は、それは、自分が有能であるという感覚、自己決定度、
そして、将来への見通しであると言います。
そして、その証拠として、高橋伸夫氏は下記の質問に対する答えと
満足比率とがきれいな直線的関係を示したという調査結果を挙げています。

(1)トップの経営方針と自分の仕事との関係を考えながら仕事をしているか。
(2)上司からの権限委譲がなされているか。
(3)自分の意見が尊重されていると思うか。
(4)21世紀の自分の会社のあるべき姿を認識しているか。
(5)良いと思ったことは、周囲を説得する自信があるか。

上記5項目は、このまま、慶の(そして他のソフトウェア会社でも)
人事面での基本的な指針になり得るものです。

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[賃金決定の仕組み] 個人事業主と整合性のある人事システム
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一方「リストラと能力主義」は、「個人優先の人事制度」を説いている
本です。

全体の三分の一位が、近未来小説風になっています。

ある会社で人事部長と組合の委員長が話し合って、次々と人事制度を
改革していく物語ですが、最終局面で組合の委員長が「われわれを
個人事業主にしてください」と要望するストーリーになっています。

森本卓郎氏は「強い日本的雇用慣行の下で働いているサラリーマンには、
あまりに非現実的な極論に思えるかもしれないが、私は10年もしない
うちに、この物語が身近なものになると確信している」と言います。

ほとんどの人事・労務関係の本では、個人事業主は無視されます。
その中で、この本が「自由と自己責任の人事システムを追及していくと、
最後にたどりつくのは個人事業主である」と主張し、個人事業主について
きちんと考えていることは立派です。

下記のことを考慮すると、ソフトウェア会社の人事システムは、
個人事業主も含めた人事システム、個人事業主と整合性のある人事
システムであるべきです。
・プログラマは知的創造的職業である。
・ソフトウェア開発技術は企業横断的な職業能力である。
・上記と関連して、ソフトウェア業界は人材の流動性が高く、
 個人事業主が多い。


個人事業主の増加については、第83号「個人事業主とは」
( http://www.kei-it.com/sailing/83-050711.html )を参照してください。

また、個人事業主と整合性のある人事システムについては、第87号
「ICグループは吉本興業や大野事務所に学べ」「成果主義型正社員グループ」
( http://www.kei-it.com/sailing/87-050808.html )
を参照してください。

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[賃金決定の仕組み] スタッフ部門に最適の賃金制度
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3番目の本「デフレに克つ給料・人事」で蒔田照幸氏が推奨している
賃金制度は「責任等級制度」です。

「責任等級制度」は「職能資格制度」(第88号、第89号参照)から曖昧さを
排除し、成果主義的要素を強めた制度です。
それでいて、「虚妄の成果主義」で高橋伸夫氏が主張している
長期雇用の良さを引き出しています。

プログラマのように企業横断的な職業能力ではなく、企業固有の職業能力が
求められるスタッフ部門には、これが最適の賃金制度だと思います。

詳細は次号以降でお話します。

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[賃金決定の仕組み] 次回以降の予告
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次号は次のようなテーマで書く予定です。

・責任等級制度とは何か?
・成果主義とは何か?
・ソフトウェア会社と成果主義

次号は、9月5日発行予定です。

乞うご期待!!

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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
「まぐまぐ!」での読者数は平成17年8月28日現在、429名です。


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August 22, 2005

職能資格制度のミソ

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_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
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第89号 2005/08/22
▼ まえがき(8/24セミナー残席あり)
▼ [賃金決定の仕組み] 職能資格制度のミソ:資格等級と職位の分離
▼ [賃金決定の仕組み] 職能資格制度の昇格が年功的である理由
▼ [賃金決定の仕組み] 賃金制度関係の3冊の本
▼ [賃金決定の仕組み] 責任等級制度
▼ [賃金決定の仕組み] 次回以降の予告


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まえがき(8/24セミナー残席あり)
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

第86号から成果主義型賃金制度をテーマとしています。
このテーマはあと数回続きそうなので、また、一旦終了しても、
断続的に続きそうなので、「永久運動の設計」シリーズから独立させて
「賃金決定の仕組み」シリーズとしました。

「賃金決定の仕組み」シリーズを最初から読みたい方は、
http://www.kei-it.com/sailing/back_salary.html を参照してください。


さて、第88号でお知らせしたとおり、慶が所属している業界団体
「羅針盤21」http://r-21.jp/ で、成果主義をテーマとした研修会を
行います。

【日時】8月24日水曜日13:30~17:00
【場所】トスラブ市ヶ谷アルファーロ
【テーマ】本当の意味での成果主義型報酬体系とは何か?
【講演会内容】
 13:30~14:00 導入(蒲生)
 14:00~15:00 講演(人事労務コンサルタント内藤講師)
 15:00~15:15 休憩
 15:15~16:00 講演(人事労務コンサルタント畑中講師)
 16:00~16:45 ディスカッション

会場を大きな会議室に変更したので、まだ5名ほど空きがあります。
本来は羅針盤21の会員しか出席できませんが、本メルマガの読者は
無料でご招待いたしますので、聴講を希望される方は
office@kei-ha.co.jp にメールでお申し込みください。

冒頭の30分で私が用語などの基礎知識を解説しますので、人事・給与に
詳しくない方でも十分に理解できるセミナーになると思います。

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[賃金決定の仕組み] 職能資格制度のミソ:資格等級と職位の分離
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第88号で解説した職能資格制度についてもう少し話します。

(1)職能資格ごとの基本給テーブル
職能資格制度では職能資格ごとに基本給テーブルがあります。
例えば社員1級には社員1級用の基本給テーブルがあり、社員1級の人は
そのテーブルの中で給料が上がっていきます。
そして、その社員が社員2級になるだけの能力を身に付けたと会社が
判断したときに、その社員は社員2級に昇格し、その後は社員2級用の
基本給テーブルにもとづいて給料が上がっていきます。

(2)等級の昇格は必ずしも昇進を約束しない
職能資格制度では、等級と職位とがある程度は関連付けられています。
例えば「係長は社員5級でなければなれない」などのように。

しかし、これは「社員5級になれば全員係長になれる」という意味では
ありません。ここが職能資格制度のミソです。

基本給テーブルが変わるのですから、賃金は資格等級に連動します。
そして、昇格のスピードが人によって違うとは言っても、後述のように
昇格は年功的に運用されやすいので、年配者の方が若者よりも賃金は
高くなります。
職能資格制度は賃金面では年功序列的なのです。

しかし、職能資格制度においては、資格等級(そしてそれに連動する賃金)と
職位とは直接的には連動しません。
等級の昇格は必ずしも職位の昇進を約束しないのです。
30歳で課長になる人もいれば、40歳で役職なしという人もいるのです。
職能資格制度は職位面では能力主義的なのです。

職能資格制度のこの二面性が下記の相反する要求を解決してきました。
・社員のニーズ:結婚したり子供ができたりすると必要となるお金が
        増えるので、50代前半までは定期昇給して欲しい。
・会社の事情:ポストには限りがあり、誰でも昇進させるわけにはいかない。

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[賃金決定の仕組み] 職能資格制度の昇格が年功的である理由
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職能資格制度の昇格が年功的である理由について、もう少し掘り下げて
みましょう。

(1)最低経過年数をベースに決められてしまう
先に「その社員が社員2級になるだけの能力を身に付けたと会社が
判断したときに、その社員は社員2級になり・・・」と書きました。

この判断は会社が固有に定めた職能要件定義を基準にして行われます。
職能要件定義には、例えば「営業職の○○資格等級では、○○の
仕事を任せられて、○○の能力が要求される」というようなことが
書かれています。

しかし、このような職能要件定義は抽象的な表現にならざるを得ないので、
実際には、それぞれの等級で定められている最低経過年数をベースに
決めてしまいます。それが唯一の数値的基準だからです。
成績の良い人は最低経過年数で昇格し、成績の悪い人はほんの少し
(1年~3年)遅れて昇格します。

(2)下げられない
また、職能給はその人の能力に対する賃金なので、成果が出たからと
言って急速に上げることができないかわりに、成果が出なかったからと
言って下げることもできません。
年齢給と同じく、基本的に下げられないのです。
したがって、これまでの日本企業は成果は賞与に反映させてきました。

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[賃金決定の仕組み] 賃金制度関係の3冊の本
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最近、賃金制度関係で下記の3冊の本を読みました。

(1)リストラと能力主義 森本卓郎 講談社現代新書
(2)虚妄の成果主義 高橋伸夫著 日経BP社
(3)デフレに克つ給料・人事 蒔田照幸著 文春新書


3冊とも非常に有益な本でした。

「リストラと能力主義」は、「年功制は製造業においては今後とも
重要な制度であり続けるであろうが、知的創造的職業では成果主義で
行かなければならない」というようなことを主張している本です。

一方、「虚妄の成果主義」は「成果に連動した賃金体系は、内発的
動機づけを低下させ、その結果として満足感を減少させてしまう。
また、基準をクリアするために働くようになり、ベストを尽くすことが
なくなる」と成果主義を徹底的に批判した本です。
高橋伸夫氏は職能資格制度に基づく年功制の復活を主張しています。

どちらが正しいのかは、次号以降に議論したいと思います。

残りのもう一冊、「デフレに克つ給料・人事」は上記の2冊とは趣の
違う本です。
上記2冊は学者が書いた本なのに対し、「デフレに克つ給料・人事」は
実際に多くの会社の賃金制度を設計してきたベテランコンサルタントが
書いた本なので、非常に具体的、実践的です。

蒔田照幸氏が強く推薦している制度は「責任等級制度」です。
私は「職能等級」「職務等級」は知っていましたが、「責任等級」という
言葉はこの本で初めて知りました。
しかし、Googleで「責任等級」で検索すると189,000件、「責任等級制度」
では77,000件ヒットするところを見ると、広く普及している制度のようです。

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[賃金決定の仕組み] 責任等級制度
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最近、私が立て続けに賃金関係の本を読んで研究している理由の一つは、
慶のスタッフ部門(事務・営業)の給与体系を見直したいからです。

現在、慶のスタッフ部門では独自の賃金テーブルがなく、技術職の
テーブルに無理やり当てはめて、賃金を決めています。

・スタッフ部門は人数が少なかった。
・会社として軌道に乗せることが先決だったので、ライン部門に比べて
 スタッフ部門の制度整備が遅れた。
・新卒が多かったので、まずは初任給にしておけばよかった。

などがその理由です。

しかし、それが限界に来ているので、スタッフ部門独自の給与体系を
早急に作ろうと思っています。

蒔田照幸氏が推薦している責任等級制度は慶(及び、他の中小ソフト会社)
のスタッフ部門の給与制度としては使えそうなので、次号で解説します。

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[賃金決定の仕組み] 次回以降の予告
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次号は次のようなテーマで書く予定です。

・責任等級制度とは何か?
・成果主義とは何か?
・ソフトウェア会社と成果主義

次号は、8月29日発行予定です。

乞うご期待!!

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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
「まぐまぐ!」での読者数は平成17年8月21日現在、424名です。


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(以下をそのまま転送するだけです。)
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