ソフト業と建設業

June 02, 2008

大手ソフト会社はゼネコン化している(?)

**************************************************************
_/_/_/_/_/_/_/  ソフトウェア業界 新航海術  _/_/_/_/_/_/_/_/_/
**************************************************************
第205号  2008/5/31 『大手ソフト会社はゼネコン化している(?)』
  ▼  まえがき:羅針盤21新規会員募集
  ▼  [ソフト業と建設業] (1)大手ソフト会社はゼネコン化している(?)
  ▼  [ソフト業と建設業] (2)大手ソフト会社の有価証券報告書
  ▼  [ソフト業と建設業] (3)6年間で労務費や外注費の割合は変化なし
  ▼  [ソフト業と建設業] (4)90年代にゼネコン化
  ▼  [ソフト業と建設業] (5)そもそもゼネコンになっていない
  ▼  [ソフト業と建設業] (6)有形財の外注との大きな相違点
  ▼  [ソフト業と建設業] (7)会計アレルギーをお持ちの方に
  ▼  お勧めメルマガ:中国オフショア開発最前線

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
  まえがき:羅針盤21新規会員募集
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

蒲生嘉達(がもうよしさと)です。

5月23日に、中堅ソフトウェア会社の団体「羅針盤21」
( http://r21.arrow.jp/ )のプレスリリースをしました。
( http://release.vfactory.jp/release/30255.html 参照)

内容は、羅針盤21の活動内容、次回セミナー案内、そして、
新規会員募集です。

次回セミナーは定員に達したので締め切りましたが、新規会員は募集
しています。興味をお持ちになられた方は、ご一報ください。

【問い合わせ先】羅針盤21事務局 riji@r21.arrow.jp


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (1)大手ソフト会社はゼネコン化している(?)
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

ソフトウェア会社は、エンジニアを社内に抱え込まなくなりつつある。
大手のベンダーを中心に、受注した案件について内製を行うための
人材を確保せずに、下請けや海外に丸投げするような業態が、
ここ数年で顕著になってきた。
ベンダーは営業と元請けに徹し、いわゆるゼネコンになりつつある
         ・・・(中略)・・・
「ゼネコンといってもいいメーカー系では、外に出した方が利益が
いいという判断ですね」

(久手堅憲之著「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由」より)

この文章を読んで、読者はどのように思われますか?

この文章の主張は次の3点に分解できます。

(A)大手ソフトウェア会社の外注比率が高まったのはここ数年の
 できごとである。
(B)大手ソフトウェア会社はゼネコンになりつつある。
(C)大手ソフトウェア会社は内製よりも外注の方が利益が出るから
 外注に出している。

そして、私は3点とも間違えていると思います。


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (2)大手ソフト会社の有価証券報告書
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

まず「(A)大手ソフトウェア会社の外注比率が高まったのはここ数年の
できごとである」が誤っていることは、上場している大手ソフトウェア
会社のI/R情報を見たらすぐに分かります。

例えば、http://www.cec-ltd.co.jp/ir/financial_report.html で、
株式会社シーイーシーの平成14年1月期から平成20年1月期までの
有価証券報告書を見ることができます。

【平成20年1月期の有価証券報告書】
http://www.cec-ltd.co.jp/ir/financial_report_pdf/20080418.pdf

 P.70「ソフトウェア開発売上製造費用明細書」では
 当期総製造費用が155億円、
 そのなかで労務費は57億円(当期総製造費用の36.9%)、
 外注費は86億円(55.9%)です。

 P.71「情報システムサービス製造費用明細書」では
 当期総製造費用が105億円、
 そのなかで労務費は36億円(33.9%)、
 外注費は63億円(59.3%)です。

【平成14年1月期の有価証券報告書】
http://www.cec-ltd.co.jp/ir/financial_report_pdf/1401_yuuka.pdf

 P.56「製造費用明細書」では
 当期総製造費用が162億円、
 そのなかで労務費は61億円(37.6%)、
 外注費は90億円(55.4%)です。

 P.57「情報システムサービス売上原価明細書」では
 当期総製造費用が72億円、
 そのなかで労務費は17億円(23.9%)、
 外注費は45億円(62.3%)です。


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (3)6年間で労務費や外注費の割合は変化なし
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

平成14年から平成20年までの6年間で、当期総製造費用に占める
労務費や外注費の割合がほとんど変わっていないことが分かります。

大手ソフトウェア会社の外注率が劇的に高まったのは「ここ数年」
ではなく、90年代です。

 【関連記事】
 第204号:ソフトウェア業はもともとは多重階層型でなかった
 [B] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2008/05/post_2eb8.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/204-080510.html


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (4)90年代にゼネコン化
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

次に「(B)大手ソフトウェア会社はゼネコンになりつつある」という
主張が正しいかどうか見てみましょう。

これは二重の意味で間違えています。

【誤り1:ゼネコン化の時期】

外注比率が高まることをゼネコン化と言うのなら、上述のとおり、
それは既に90年代に完了しています。

政府調達市場を大手SIerが独占していることをもってゼネコン化と
言うのなら、それも90年代に完了しています。

(「政府調達制度とITシステム“ITゼネコン”を育てたのは誰か」
http://www.rieti.go.jp/jp/events/03020501/pdf/kishimoto_p.pdf 参照)


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (5)そもそもゼネコンになっていない
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

【誤り2:そもそもゼネコンになっていない】

第203号からしばしば引用している「建設外注費の本質とその真実性」
( http://ci.nii.ac.jp/naid/110001053850/ 参照)には、
「上場ソフトウェア業8社では労務費が原価に占める割合は34%」という
データが記されています。

これは2001年度のデータですが、上述の株式会社シーイーシーの数字を
見ても労務費が原価に占める割合は、やはり30数パーセントです。

2000年以降、この比率はほとんど変わっていないのでしょう。

一方、建設業で労務費が原価に占める割合は「建設外注費の本質と
その真実性」によると5.6%です。
これは建設業一般の数字なので、ゼネコンに限ってみるとさらに
労務費の比率は下がり、限りなく0%に近づきます。

 例:奥村組 平成18年度有価証券報告書P.67
 http://www.okumuragumi.co.jp/ir/financial/pdf/yuukasyouken70.pdf

「大手ソフトウェア会社はゼネコンになりつつある」と言っている人が
考えている以上に、ゼネコンの外注化は極めて徹底しているのです。

また、「スーパーゼネコンは、建設工事の施工を営業の中核としながら、
社内に設計部門・エンジニアリング部門・研究開発部門を抱えており、
建設に関する幅広い技術力を有している」(Wikipedia より)のであり、
もしも本当に大手ソフトウェア会社がゼネコン化しているなら、
彼らの技術力は向上しているはずなのです。


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (6)有形財の外注との大きな相違点
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

最後に、「(C)大手ソフトウェア会社は内製よりも外注の方が利益が
出るから外注に出している」は正しいでしょうか?

実はこれも怪しいのです。

長くなりすぎるので、ヒントだけ記します。

(ソフトウェア業においては)外注決定の要因として社内の
人手不足や技術力不足が、金銭的な条件より優先されることが
挙げられ、これは有形財の外注との大きな相違点といえる。

       (「建設外注費の本質とその真実性」より)


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (7)会計アレルギーをお持ちの方に
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

貸借対照表、損益計算書についてのごくごく初歩的な知識があれば、
インターネットで公開されている財務諸表を見てみようという気に
なります。

会計アレルギーをお持ちの方は拙著「ソフト会社の心臓」を是非
お読みください。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4779002958/keiitteanifty-22


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
  お勧めメルマガ:中国オフショア開発最前線
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

【お勧めメルマガ】
私は下記のメルマガを中国オフショアについての情報源の一つと
しています。
中国オフショアに興味をお持ちの方には推薦します。

------------------------------------------------------------
 中国オフショア開発最前線
 ~中国ソフトウェア産業の実像に迫る~

 実務経験14年の中国オフショア開発コンサルタントが
 実体験に基づくリアルな情報を中国現地からお届けします。
  業界専門雑誌「オフショア開発PRESS」、リクナビ特集
 記事でも紹介された発行人が発信する業界専門メルマガです。
 中国情報局(サーチナ)経済コラムでも好評連載中!
 http://news.searchina.ne.jp/topic/801.html

 購読登録はこちらから
 http://www.jp-snic.com/Information/mail-magazin.html

------------------------------------------------------------


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
  本メルマガについて
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

本メルマガの精神については、発行者サイト
http://www.kei-it.com/sailing/index.html を参照してください。

本メルマガの内容に興味を持つであろう方をご存知なら、是非、
本メルマガの存在を教えてあげてください。

(以下をそのまま転送するだけです。)
---------------------------------------------------
【お勧めメルマガ ソフトウェア業界 新航海術】
http://www.mag2.com/m/0000136030.htm または
 http://www.gampu.jp/sailing/ または
 http://www.kei-it.com/sailing/ 
--------------------------------------------------

このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して
発行しています。配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000136030.htm

「まぐまぐ!」での読者数は2008年6月1日現在、680名です。

バックナンバーは、発行者サイトまたはブログで、体系として
見てもらいたいので、「まぐまぐ!」でのバックナンバー公開は
最新号のみとなっています。

発行者サイト: http://www.kei-it.com/sailing/
(バックナンバーの全文検索も可能です。)

ブログ:http://www.gamou.jp/sailing/
(人気記事ランキングが見られます。)

|

May 11, 2008

ソフトウェア業はもともとは多重階層型でなかった

**************************************************************
_/_/_/_/_/_/_/  ソフトウェア業界 新航海術  _/_/_/_/_/_/_/_/_/
**************************************************************
第204号  2008/5/10 『ソフト業はもともとは多重階層型でなかった』
  ▼  まえがき
  ▼  [ソフト業と建設業] (1)似ているといわれる2点
  ▼  [ソフト業と建設業] (2)建設業はソフト業ほどには労働集約的でない
  ▼  [ソフト業と建設業] (3)15年間で労務費が80.3%から11.3%に激減
  ▼  [ソフト業と建設業] (4)もともとは多重階層型でなかった
  ▼  次回以降の予告

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
  まえがき
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

蒲生嘉達(がもうよしさと)です。

第203号「人月見積もり問題を会計的な視点から」で引用した論文
「建設外注費の本質とその真実性」(新川 正子 著)は、2002年12月31日に
発行された千葉商大論叢に載っています。
( http://ci.nii.ac.jp/naid/110001053850/ 参照)

また、単行本「建設外注費の理論(新川 正子 著、森山書店発行)」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4839420262/keiitteanifty-22
にも収録されています。

今週号も「建設外注費の本質とその真実性」を参考にしながら、
議論を進めます。


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (1)似ているといわれる2点
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

よく「ソフトウェア業と建設業は似ている」と言われます。

例:SI業界は建設業界に似ているというのは本当か?
  http://blogs.itmedia.co.jp/pina/2005/11/post_8b60.html

そして、似ていると言われる理由は次の二つです。

・両方とも労働集約型産業である
・両方とも多重階層型労務形態である

「ソフトウェア業と建設業は似ていない」と主張する人もこの二点
については否定しません。
それ以外の点で似ていないと主張しているのです。

しかし、「似ている」「似ていない」という主張のほとんどが、
多分に感覚的なもので、数字的根拠を持っていません。

その点「建設外注費の本質とその真実性」は数字的根拠があるので
面白かったです。
建設業の側からソフトウェア業を見ているところも面白かったです。


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (2)建設業はソフト業ほどには労働集約的でない
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

「建設外注費の本質とその真実性」に出てくる数字を見ていくと、
「両方とも労働集約型産業である」「両方とも多重階層型労務形態である」
という一般的認識に対する疑問が生じてきます。

まず、「両方とも労働集約型産業である」という点について。

原価構成から考えると、ソフトウェア業は典型的な労働集約型産業ですが、
建設業はソフトウェア業ほどには労働集約的ではありません。
確かに製造業と比べると労働集約的ですが・・・。

ソフトウェア業と建設業の原価構成の比較は第203号を参照してください。

 第203号「人月見積もり問題を会計的な視点から」
 [B] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2008/04/post_5c4a.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/203-080428.html


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (3)15年間で労務費が80.3%から11.3%に激減
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

次に「ソフトウェア業と建設業はともに多重階層型労務形態である」
という一般的認識について考えてみましょう。

第203号で述べたとおり、ソフトウェア業と建設業の原価構成は
外注費の比率が高いという点についてはよく似ています。

しかし、「建設外注費の本質とその真実性」に出てくる数字を見て
いくと、この点について意外なことが分かってきます。

任意抽出したソフトウェア業2社の原価構成の推移を、1985年と
2000年との有価証券報告書より比較調査した。・・・(中略)・・・
注目すべき点は、経費率は、大きくは変化していないが、人件費
比率と外注費比率が逆転していることである。
        (「建設外注費の本質とその真実性」より)

「建設外注費の本質とその真実性」に大手ソフトウェア会社A社の
例が載っています。

A社の労務費は、
1985年には128億円、原価に占める割合は80.3%、
2000年には106億円、原価に占める割合は22.1%でした。

一方、外注費は、
1985年には18億円、原価に占める割合は11.3%、
2000年には317億円、原価に占める割合は65.6%でした。

わずか15年間に労務費の比率が80.3%から11.3%に激減し、
外注費が22.1%から65.6%に激増していることに驚かされます。


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (4)もともとは多重階層型でなかった
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

このことは、次のことを意味しています。

 大手ソフトウェア会社A社は1985年の段階では、請け負った仕事の
 ほとんどを自社の社員でこなしていたのに、2000年の段階では
 ほとんどを外注でこなすようになった。

そして、1985年時点でA社の外注費が労務費の1/4に過ぎなかったと
いうことは、A社起点で発生する多重階層型労務形態は大規模なもの
ではなかったということなのです。

つまり、多重階層型労務形態はソフトウェア業が本来持っていた性格
ではなく、80年代後半以降に何らかの原因で獲得した性格なのです。

その原因は何でしょうか?
80年代後半以降にソフトウェア業に何が起きたのでしょうか?

このあたりとを考えていかないと、多重請負問題の本質は見えてきません。

次号でさらに考察を進めます。


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
  次回以降の予告
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

次回発行予定は、5月下旬です。

ソフトウェア業が多重階層型となった原因を探ります。

乞うご期待!!


*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
  本メルマガについて
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

本メルマガの精神については、発行者サイト
http://www.kei-it.com/sailing/index.html を参照してください。

本メルマガの内容に興味を持つであろう方をご存知なら、是非、
本メルマガの存在を教えてあげてください。

(以下をそのまま転送するだけです。)
---------------------------------------------------
【お勧めメルマガ ソフトウェア業界 新航海術】
http://www.mag2.com/m/0000136030.htm または
 http://www.gampu.jp/sailing/ または
 http://www.kei-it.com/sailing/ 
--------------------------------------------------

このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して
発行しています。配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000136030.htm
(但し、慶社員には社内のメーリングリストで配信しています。)

「まぐまぐ!」での読者数は2008年5月10日現在、678名です。

バックナンバーは、発行者サイトまたはブログで、体系として
見てもらいたいので、「まぐまぐ!」でのバックナンバー公開は
最新号のみとなっています。

発行者サイト: http://www.kei-it.com/sailing/
(バックナンバーの全文検索も可能です。)

ブログ:http://www.gamou.jp/sailing/
(人気記事ランキングが見られます。)

|

April 28, 2008

人月見積もり問題を会計的な視点から

**************************************************************
_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
**************************************************************
第203号 2008/3/24 『人月見積もりを会計的な視点から』
▼ まえがき:「ソフト会社の心臓」プレスリリース
▼ [ソフト業と建設業] (1)人月は関係ないよね(?)
▼ [ソフト業と建設業] (2)建設業とソフトウェア業の原価構成比較
▼ [ソフト業と建設業] (3)ソフトウェア業と建設業の原価構成の違い
▼ [ソフト業と建設業] (4)単純には人月見積もりを否定できない
▼ [ソフト業と建設業] (5)会計的視点から見た人月見積もりの問題
▼ [ソフト業と建設業] (6)現時点での私の結論
▼ 次回以降の予告

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
まえがき:「ソフト会社の心臓ブログ」開設
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

蒲生嘉達(がもうよしさと)です。

遅ればせながら、4月11日に「ソフト会社の心臓」をプレスリリース
しました。

10数個のサイトに掲載されています。

例:KEIEIコンビニ
http://www.keiei.ne.jp/dir/press/column/10016925.html?c=cl&l=sv_0

(その他の例は http://www.gamou.jp/heart/2008/04/post_7e3c.html 参照)

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (1)人月は関係ないよね(?)
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

「人月」という奇妙な単位は、いまだにソフトウェア開発で標準的に
用いられ、プロジェクトの計画やその理解を困難にしている。
見積もりや進捗管理の単位としては適切でないことが昔から知られて
いるのに、この単語でしか仕事を語ろうとしない。

               ・・・(中略)・・・

本来は人月じゃなくて「これだけの仕事をいくらでやれ」って話でしょ。
人月は関係ないよね。

(久手堅憲之著「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由」より)

今週号ではこの人月見積もり問題を会計的な視点から眺めてみます。

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (2)建設業とソフトウェア業の原価構成比較
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

ソフトウェア業の原価構成は建設業に似ていると言われます。

【建設業とソフトウェア業の原価構成比較】

ソフトウェア業
 外注費:49.2%
 労務費:34%
 材料費: 3.2%
 経費: 13.6%

建設業
 外注費:69.8%
 労務費: 5.6%
 材料費:11.3%
 経費: 13.3%
 
( 千葉商科大学「建設外注費の本質とその真実性」より
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001053850/ )

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (3)ソフトウェア業と建設業の原価構成の違い
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

確かに外注費の比率の高さは似ています。

しかし、外注費の中身に着目すると少し違って見えてきます。

ソフトウェア業の場合、外注費の中身はほとんどが下請けの労務費と
外注費(そして、この外注費の中身は孫請けの労務費)です。
つまり、元請と下請けを連結して見るとほとんどが労務費に還元
されます。

一方、建設業の外注費の中身には下請けの材料費も経費(工作機械など)
も含まれます。

つまり、建設業の場合、元請と下請けを連結して見ると、材料費と
経費の割合は上記数字以上に大きいのです。
正確な数字は分かりませんが、材料費、労務費、経費はそれぞれ30%
前後ではないでしょうか?

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (4)単純には人月見積もりを否定できない
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

ソフトウェア業の人月見積もりを批判し、建設業の細かい積算見積
もりを賞賛する人もいます。

 例:日経コンピュータ2006年1月9日号
    特集 甦れ!日本のIT
     プラント・エンジニアリングに習う
      業界全体で積算・見積手法の確立を

しかし、建設業の場合は原価に占める材料費と経費の割合が大きく、
それが細かい積算見積もりを可能にしているという面を見逃しては
ならないでしょう。

ちなみに、製造業の場合は建設業以上に材料費と経費の割合が増えます。
例えば、無人化工場では労務費は限りなく0に近づきます。

 関連記事:第192号(3)製造業の在庫とソフトウェア業の仕掛品
 [B} http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2007/08/post_9de7.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/192-070827.html

ソフトウェア業の人月見積もりについて議論する場合、このような
原価構造の違いを理解しておく必要があります。

価格は生産者側の原価で決まるのではなく消費者側の予算や市場で
決まるという主張もあり得ますが、いずれにしても、価格が原価と
無縁であるということはあり得ません。

冒頭の「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由」からの
引用文のように単純に人月見積もりを否定することはできません。

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (5)会計的視点から見た人月見積もりの問題
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

但し、私は「ソフトウェア業は人月見積もりでよい」と言っている
わけではありません。

人月見積もりの問題点を会計的な視点から語ると次のようになります。
やはり「建設外注費の本質とその真実性」からの引用です。

・原材料の投入量(原価)とソフトウェア製品の産出量との相関関係
 が工業生産物ほど明確ではない
・ソフトウェア製品、仕掛品は不可視であり、ソフトウェア製品を
 原価との関係で管理することが困難である

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
[ソフト業と建設業] (6)現時点での私の結論
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

現時点での私の結論は次のとおりです。

・受託開発で人月見積もりをベースにするのはやむを得ない。

・一方で、人月とは直接関係のない付加価値の高いサービスを生み
 出していきたい。

 関連記事:第123号「請負開発を人月で見積もる理由」
 [B] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2006/04/post_3018.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/123-060417.html

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
次回以降の予告
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

次回発行予定は、5月中旬です。

乞うご期待!!

*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
本メルマガについて
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

本メルマガの精神については、発行者サイト
http://www.kei-it.com/sailing/index.html を参照してください。

本メルマガの内容に興味を持つであろう方をご存知なら、是非、
本メルマガの存在を教えてあげてください。

(以下をそのまま転送するだけです。)
---------------------------------------------------
【お勧めメルマガ ソフトウェア業界 新航海術】
⇒ http://www.mag2.com/m/0000136030.htm または
 http://www.gampu.jp/sailing/ または
 http://www.kei-it.com/sailing/ 
--------------------------------------------------

このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して
発行しています。配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000136030.htm
(但し、慶社員には社内のメーリングリストで配信しています。)

「まぐまぐ!」での読者数は2008年4月25日現在、676名です。

バックナンバーは、発行者サイトまたはブログで、体系として
見てもらいたいので、「まぐまぐ!」でのバックナンバー公開は
最新号のみとなっています。

発行者サイト: http://www.kei-it.com/sailing/
(バックナンバーの全文検索も可能です。)

ブログ:http://www.gamou.jp/sailing/
(人気記事ランキングも見られます。)

|