ソフトウェア業はもともとは多重階層型でなかった
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_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
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第204号 2008/5/10 『ソフト業はもともとは多重階層型でなかった』
▼ まえがき
▼ [ソフト業と建設業] (1)似ているといわれる2点
▼ [ソフト業と建設業] (2)建設業はソフト業ほどには労働集約的でない
▼ [ソフト業と建設業] (3)15年間で労務費が80.3%から11.3%に激減
▼ [ソフト業と建設業] (4)もともとは多重階層型でなかった
▼ 次回以降の予告
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まえがき
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蒲生嘉達(がもうよしさと)です。
第203号「人月見積もり問題を会計的な視点から」で引用した論文
「建設外注費の本質とその真実性」(新川 正子 著)は、2002年12月31日に
発行された千葉商大論叢に載っています。
( http://ci.nii.ac.jp/naid/110001053850/ 参照)
また、単行本「建設外注費の理論(新川 正子 著、森山書店発行)」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4839420262/keiitteanifty-22
にも収録されています。
今週号も「建設外注費の本質とその真実性」を参考にしながら、
議論を進めます。
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[ソフト業と建設業] (1)似ているといわれる2点
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よく「ソフトウェア業と建設業は似ている」と言われます。
例:SI業界は建設業界に似ているというのは本当か?
http://blogs.itmedia.co.jp/pina/2005/11/post_8b60.html
そして、似ていると言われる理由は次の二つです。
・両方とも労働集約型産業である
・両方とも多重階層型労務形態である
「ソフトウェア業と建設業は似ていない」と主張する人もこの二点
については否定しません。
それ以外の点で似ていないと主張しているのです。
しかし、「似ている」「似ていない」という主張のほとんどが、
多分に感覚的なもので、数字的根拠を持っていません。
その点「建設外注費の本質とその真実性」は数字的根拠があるので
面白かったです。
建設業の側からソフトウェア業を見ているところも面白かったです。
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[ソフト業と建設業] (2)建設業はソフト業ほどには労働集約的でない
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「建設外注費の本質とその真実性」に出てくる数字を見ていくと、
「両方とも労働集約型産業である」「両方とも多重階層型労務形態である」
という一般的認識に対する疑問が生じてきます。
まず、「両方とも労働集約型産業である」という点について。
原価構成から考えると、ソフトウェア業は典型的な労働集約型産業ですが、
建設業はソフトウェア業ほどには労働集約的ではありません。
確かに製造業と比べると労働集約的ですが・・・。
ソフトウェア業と建設業の原価構成の比較は第203号を参照してください。
第203号「人月見積もり問題を会計的な視点から」
[B] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2008/04/post_5c4a.html
[H] http://www.kei-it.com/sailing/203-080428.html
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[ソフト業と建設業] (3)15年間で労務費が80.3%から11.3%に激減
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次に「ソフトウェア業と建設業はともに多重階層型労務形態である」
という一般的認識について考えてみましょう。
第203号で述べたとおり、ソフトウェア業と建設業の原価構成は
外注費の比率が高いという点についてはよく似ています。
しかし、「建設外注費の本質とその真実性」に出てくる数字を見て
いくと、この点について意外なことが分かってきます。
任意抽出したソフトウェア業2社の原価構成の推移を、1985年と
2000年との有価証券報告書より比較調査した。・・・(中略)・・・
注目すべき点は、経費率は、大きくは変化していないが、人件費
比率と外注費比率が逆転していることである。
(「建設外注費の本質とその真実性」より)
「建設外注費の本質とその真実性」に大手ソフトウェア会社A社の
例が載っています。
A社の労務費は、
1985年には128億円、原価に占める割合は80.3%、
2000年には106億円、原価に占める割合は22.1%でした。
一方、外注費は、
1985年には18億円、原価に占める割合は11.3%、
2000年には317億円、原価に占める割合は65.6%でした。
わずか15年間に労務費の比率が80.3%から11.3%に激減し、
外注費が22.1%から65.6%に激増していることに驚かされます。
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[ソフト業と建設業] (4)もともとは多重階層型でなかった
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このことは、次のことを意味しています。
大手ソフトウェア会社A社は1985年の段階では、請け負った仕事の
ほとんどを自社の社員でこなしていたのに、2000年の段階では
ほとんどを外注でこなすようになった。
そして、1985年時点でA社の外注費が労務費の1/4に過ぎなかったと
いうことは、A社起点で発生する多重階層型労務形態は大規模なもの
ではなかったということなのです。
つまり、多重階層型労務形態はソフトウェア業が本来持っていた性格
ではなく、80年代後半以降に何らかの原因で獲得した性格なのです。
その原因は何でしょうか?
80年代後半以降にソフトウェア業に何が起きたのでしょうか?
このあたりとを考えていかないと、多重請負問題の本質は見えてきません。
次号でさらに考察を進めます。
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次回以降の予告
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次回発行予定は、5月下旬です。
ソフトウェア業が多重階層型となった原因を探ります。
乞うご期待!!
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