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June 28, 2004

組織特殊的な人的資産

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_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
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第30号 2004/06/28
▼ まえがき
▼ [永久運動の設計] 初期の製造業における従業員
▼ [永久運動の設計] 組織特殊的な人的資産
▼ [永久運動の設計] 終身雇用と年功序列の慣行
▼ 次回以降の予告

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まえがき
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蒲生嘉達です。お疲れ様です。

本メルマガは、慶の社員(正社員・契約社員)及び慶と契約している
個人事業主の方々に配信しています。

感想をお持ちなら是非返信してください。


第29号は今読み返しても内容の濃い号でした。
会社法の本を数冊読むよりも会社法の本質が理解できる内容となって
いると思います。

しかし、会社法というものが元々そういうものなのですが、株主、
代表取締役、取締役、監査役についてのみ書かれており、会社の
もう一方の主役である従業員については全く言及しませんでした。

今週号は従業員について考えてみます。
ここで言う「従業員」には、雇用契約で働いている社員(正社員、
契約社員)だけでなく、請負契約で働いている個人事業主も含まれ
ています。


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[永久運動の設計] 初期の製造業における従業員
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製造業の場合、高価な機械が中心にあり、従業員はそれに群がる
ように存在しています。

初期の製造業では、「機械とその下で単純労働をする労働者」という
図式でした。
そこでは、労働力は資源(リソース)であり、交換可能な部品や
製品の原材料と同じように考えられていました。
株式会社という仕組みが考え出された時代はそのような時代でした。
したがって、会社法では従業員のことは全く問題にしていないのです。


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[永久運動の設計] 組織特殊的な人的資産
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しかし、機械が高度化するにつれて、それを操作する熟練工や
専門家が必要になってきます。
また、組織が複雑になるにつれて、財務や法務や人事の専門家も
必要になってきますし、中間管理職も必要になってきます。
また、根回し、気配りに長けた人材も必要になってきます。

これらの、人材は会社にとって極めて重要な資産ですが、それは
貸借対照表には直接的には表現されない資産です。
いわゆる人的資産です。

以前NHKで日本の製造業の空洞化を憂いた番組を見たことがあります。
その中で、町工場の金型職人が取り上げられていました。
その熟練職人は手で1000分の1ミリの差を感じられるそうです。
まさに日本の宝とも言える職人芸です。
実際に携帯電話の金型作りでこの職人芸は活用され、数年前は仕事が
殺到していたそうです。日本の製造業の強さを町工場の職人の技が
支えていたのです。
ところが、今は製造が海外に移転し、その金型の熟練職人が勤めて
いる町工場の仕事も激減し、困っているという内容の番組でした。


この職人の技は会社にとって資産です。
しかし、機械設備のような物的資産と違って、その職人と切り離せ
ないものです。これが「人的資産」と言われるゆえんです。
また、その職人の技はその町工場の仕事と環境と設備の中で最も
高く評価されます。
これが「組織特殊的な人的資産」と言われるゆえんです。
いわば「つぶしのきかない人的資産」なのです。


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[永久運動の設計] 終身雇用と年功序列の慣行
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上述の金型職人は極めて高度な技能を持ちながら、現在仕事が無くて
困っています。
これは彼が高度な技能と同時に「専門家の弱さ」(第27号参照)も
身に付けてしまったということです。

> 専門家というものは、「たった一つの産業でしか通用しない技能を
> 習得するために生涯を捧げる」人たちです。
> そして人生をかけて獲得したその技能は、ほかの産業では通用
> しません。
>                     (第27号より)


熟練工や専門家は会社にとって大切な「人的資産」です。
したがって、会社は彼らを囲い込み、保護しようとします。

一方、熟練工や専門家は自分の人的資産価値がその会社を離れては
評価されないことを知っています。
したがって、自分を最も評価し、守ってくれる会社に愛着を感じ、
忠誠を誓い、会社のために働いたのです。

このようにして終身雇用と年功序列の慣行が生まれました。

注意しなければならないことは、終身雇用と年功序列の慣行の中で
生きている従業員がイメージしている「会社」とは、株主でも
経営者でもありません。生身の人間ではなく、抽象的な法人です。

政治家や国民が変わっても「日本」という国が永続するように、
経営者や株主や従業員が変わっても永続する存在としての法人です。

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次回以降の予告
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SE・プログラマは町工場の金型職人と同様、人的資産ですが、
より汎用的な(組織特殊的ではなく)人的資産です。

次号ではソフトウェア会社における従業員について考察します。

次号は、7月5日発行予定です。乞うご期待!!

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発行:
株式会社 慶
 代表取締役 蒲生 嘉達
y_gamou@kei-ha.co.jp http://www.kei-ha.co.jp

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