第236号

農業とIT

作っても、作っても利益が出ない

第236号「農業とIT」の補足です。

第236号で、ヤル気のある専業農家が置かれている状況について、次のように述べました。

  • 耕作放棄地はあるので、需要さえあれば、規模の拡大は可能
  • しかし、既存の販路では、「作っても、作っても利益が出ない」

これについての証言を二つ引用します。

同じ作物を作る他産地の農家と競合し、産地間競争による値下げ合戦の消耗戦を生んだ。そこにつけ込まれて、寡占化する流通・小売に価格決定権を奪われ、どこの産地も農家の手取りが減る一方である。(浅川芳裕「日本は世界5位の農業大国」)

これまでの農家は、作物を生産してJAなどに持っていけば、売上が確保されていました。しかし、作物の値段が下がってしまうと、作っても、作っても利益が出ないということになります。この状況から脱却するためには、自ら販路を開拓していくしかありません。そのためには他の農家と違う品種を育てたり、加工を施したり、差別化を図らなくてはならないのです。(松本一浩著「農はショーバイ!」)

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日本の農業に起きる3つの流れ

第236号「農業とIT」の補足です。

第236号で、今後日本の農業では次の3つの流れが同時に進むと述べました。

(A)ヤル気のある専業農家の大規模化、集約化
(B)農業周辺ビジネスの拡大
(C)零細な兼業農家の衰退

これについて補足します。

(1)人口の波

藻谷浩介氏が「デフレの正体」で、『経済は「人口の波」で動く』、『「景気の波」を打ち消すほど大きい「人口の波」が、日本経済を洗っている』と指摘しています。

農業の今後の方向性も根底には「人口の波」の影響があります。

農業も放っておいても、生産年齢人口が激減していきます。つまり、放っておいたら、耕作放棄地が激増します。

余った農地を使えるのは次の2種類の人たちです。

  • 規模拡大を求めているヤル気のある専業農家
  • 農業周辺ビジネス起業家

(2)ヤル気のある専業農家の大規模化

耕作放棄地が増える中でヤル気のある専業農家の大規模化が進むことは自然ですし、また、そうでなければなりません。

先進国とは、いうなれば経済成長によって農家が他産業に移り、農業のGDP比率が相対的に低くなった国である。そして、残った少数精鋭の農家が技術力、生産性を高めた結果、大きな付加価値(農業GDP)を生むことができるようになった国なのだ。(浅川芳裕著「日本は世界5位の農業大国」)

20ヘクタール以上の米作農家の平均農業所得は1200万円を超えている。(山下一仁著「農協の大罪」)

(3)農業周辺ビジネス起業家

但し、専業農家の大規模化は農地として最も適した土地を中心に起きるでしょう。

大規模化しやすく耕作しやすい平野部で、遊休地がさらに増えていくことは考えにくいでしょう。これからも遊休地が増えていくのは、耕作しにくい中山間地だと思う(松本一浩著「農はショーバイ!」)

耕作しにくい中山間地や細切れになった都市近郊の農地には、耕作放棄地が増えてくるでしょう。

しかし、これらを有効活用する農業周辺ビジネス起業家も出てくるでしょうし、また、出てこないといけません。

農業界は今、レジャーや観光、不動産、教育、医療といった産業界の知恵や実績を吸収しながら、新たなビジネスを創出できる絶好のポジションにあるのだ。(浅川芳裕著日本は世界5位の農業大国)

「半農半X(はんのうはんえっくす)」などのライフスタイルを持つ新しい兼業農家もこの中に含まれます。

また週末農業愛好者、市民農園愛好者はユーザとして農業周辺ビジネスに参加しています。

(4)零細な兼業農家の衰退

零細な兼業農家を保護する政策が、日本の農業をゆがめていることは多くの識者が指摘しています。

小農・零細農家は、本職はサラリーマンの兼業農家なので今や富農である。それに対して、なかなか農業規模を拡大できず、所得が増えない主業農家こそが貧農である。(山下一仁著「農協の大罪」)

零細な兼業農家のほうが専業農家よりも高い所得を上げ、かつ専業農家の規模拡大による所得増加を妨害し、また、土日農業のために、手間隙かけない農薬・化学肥料多投の農業を実施している。(山下一仁著「農協の大罪」)

零細な兼業農家こそ高齢化が進んでいるのであり、彼らはヤル気のある専業農家や農業周辺ビジネス起業家に土地を提供する側に回るだろうし、また、そうなっていかなければなりません。

日本にとって必要な専業農家、いわゆる本物のプロ農家が高齢化したというよりも、8割の疑似農家が「統計上の高齢化」を引き起こしているにすぎない
(浅川芳裕著「日本は世界5位の農業大国」)

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どのくらいの農地があれば人一人が生きられるか

第236号「農業とIT」の補足です。

自分が耕せる農地をどの程度持っていたら自給自足できるのでしょうか?

(1)米

米を主食とした場合、最低5アール(約0.5反)の水田が必要でしょう。
根拠は以下のとおりです。

【生産量】

ベテラン専業米農家が条件のよい環境の1反で収穫できる米の量は約500kgと言われています。

たとえば、「岡山県新規就農者ガイドブック」では農業経営指導指標(ベストの数字)が530kgとなっています。

他の文献でも、

1反(約300坪)の田んぼで収穫できるお米は、どんなにとれても8俵(480kg)と言われています。そのお米を仮に1俵=1万5000円で、JAに買ってもらえるとすると、8俵で売上は12万円です。(松本 一浩著「農はショーバイ!」より)

【消費量】
一方、人は年間どれだか米を食べるのでしょうか?

宮沢賢治の「雨にも負けず」の中で「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ」という一節があります。

 1合=150gとして、4合=600g

宮沢賢治は年間219kg(600g×365日=219,000g=219kg)食べていたことになります。

ちなみに、現在の日本人はその三分の一も米を食べません。

お米を食べる量は年々減ってきており、一人が1年間に食べる量でみると、昭和35年には114.9kgでしたが、平成16年には61.5kgと、ほぼ半減しています。
http://www.pref.miyagi.jp/syokushin/s-hanbai/miyagicomenaviweb/future/future01.html

宮沢賢治の時代の食生活に戻るとすると、米の生産量が480kg/反なら、「219kg÷480kg=0.46反」の水田が必要ということになります。

田んぼの条件が悪い場合にはもっと必要になるでしょう。

(2)ジャガイモ

ジャガイモを主食とした場合は、もう少し狭くても自給自足できるかもしれません。

農林水産省の資料によれば、ジャガイモの20年度の10a当たり収量は、最高の北海道で3,860kg、最低の滋賀県で1,040kg、東京都で2,010kgです。(「いも類関係統計データ」参照)

東京の収量で計算しても米の約4倍の収量があります。
単純に収量のみ考え、連作障害問題も無視するなら、水田の四分の一の面積(1.25アール)のジャガイモ畑があれば人一人が生き延びることができるのかなと考えています。

また、ジャガイモは米よりも短期間に収穫できます。上記が年1回栽培を前提とした数字なら、空いている時期には他の野菜も栽培できることも考えられます。

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