「恐慌的スタグフレーションが来る」の要約
第211号「冬の時代に突入する前に」の補足です。
第211号「冬の時代に突入する前に」
[HP版] http://www.kei-it.com/sailing/211-080923.html
[Blog版] http://www.gamou.jp/comment/2008/09/211-d868.html
「恐慌的スタグフレーションが来る(文藝春秋2008年9月特別号)」とその続きの「零戦型ものづくりが日本を滅ぼす(文藝春秋2008年10月号)」の抜粋です。両方とも堺屋太一氏が書かれた記事です。
●恐慌的スタグフレーションが来る
日本経済はいまだかつて経験したことのない深刻な危機を迎えています。「内憂外患」に加えて「身中の虫」にも取り付かれた三重苦の状態に陥っているのです。
という言葉で始まり、「外患」「内憂」「身中の虫」の順に解説し、最後に「救国維新」を説いています。
【外患】
(1)「お金」の概念が変った
アメリカ経済について簡潔に的を射た解説をしています。
レーガン大統領の経済政策は、ペーパーマネーの供給を増やすことで財政赤字と貿易赤字を賄う一方、グローバル化によって物価を安定させた。それによって製造業が衰退し、新型サービス産業や情報産業などが成長、産業構造も転換したのでした。
しかし、
第二次産業から第三次産業への人材の流動は、所得階層の上下分解でもあったのです。
(2)「ペーパーマネー」の原理
「十年あまり続いたデフレの時代は終焉した」と指摘しています。
旧ソ連の参加で拡大した資源供給を上回る需要増加が生じ、中国の労働賃金が上がり出せば、デフレ要因はなくなってしまうのです。
(3)天才的偽装---サブプライム・ローン
サブプライム・ローンの特徴は証券化と保険を付けることの二点にあり、証券化も保険も大きな数でリスクを補完しあう「大数補完」という原理で成り立っているのだが、
サブプライムは住宅価格が下落すると、何百万件あっても一斉に値下がりする。つまり一つの現象に賭けているのだから大数補完は成り立たない。
(4)グローバル化で利益も損害も拡大
通貨と情報のグローバル化で、アメリカのサブプライム証券を世界中の金融機関が買うという現象が起こりました。
(5)危機を拡大するテコ
世界的な需給関係で石油価格が高騰し、景気が減速し、住宅が値下がりし、サブプライム証券が値下がりしたことが引き金となり、
ペーパーマネーがサブプライムから逃げ出しました。どこへ向かったかというと、値上がりしそうな資源の先物を買い出したのです。
(6)「十年前の日本」を辿る今のアメリカ
金融危機で景気が悪化すれば、一段と住宅価格が下がり、今は健全なローンも次々と不良債権化していると指摘しています。
(7)石油の次は食糧、難民
石油が値上がりすると石油を原料とする化学肥料や農薬が値上がり、最貧国の農民には買えなくなる。
貧しい国々が大凶作になると、その国々の政情が不安定になり内乱が起き、
石油と食糧の高騰、アメリカ経済の減速による世界的なスタグフレーション、発展途上国での飢饉、政情不安・・・、それでユーロッパ諸国が恐れるのが難民の多発
(8)強いドルとゼロ金利
アメリカがインフレを防ぐために国内の金利を上げてドル高に誘導しようとすると、円安となり、日本は、
特に中産階級の賃金は上がらず、預金には金利が付かず、購入した不動産は値下がり、タバコやガソリンはバカ高い、と散々です。
(9)製造業はどこでもできる
日本が散々な目に会う背景には「資源高の製品安」という現象が・・・
世界的に近代的製造業の参加者が劇的に増えたのです。その結果、製品価格は安いままになっているのです。
日本がコモディティ的なモノ造り国であり続けるなら、低賃金国との競争に曝され、「アジアの田舎」に成り下がると思わざるを得ません。
●零戦型ものづくりが日本を滅ぼす
【内憂】
(1)日本の内憂---劇的に進む体質老化
世界経済について厳しい予測をしています。
この危機は、一時的な減税還付や破綻証券会社の救済、政府系住宅金融公社への公的資金の投入などでは収拾しないでしょう。今年の後半から来年にかけて、世界経済は厳しい状況になる、と私は考えています。
そして、日本の根本的な問題は、「体質の老化」と「自閉気質」にあると指摘しています。
地価株価の下落も、ワーキング・プアや所得格差の問題も、財政赤字も、いわば発熱や発疹のような表層症状です。本当の問題は、そんな症状を生み出している体質の老化と、それを改善できない自閉気質なのです。
「体質の老化」の中で最も深刻なのは、「東京と地方との不平等均衡の崩壊」と「製造工程への過剰依存の破綻」であると指摘しています。
(2)地方に金持ちがいなくなった
地方の衰退・・・
戦後、地方には六種類の金持ち(資産家)がいました。 ①山林家、②酒造業者、③地場産業のオーナー経営者、④商店街の老舗の檀那、⑤地域の建設業者、そして⑥医師です。だが、今はそのほとんどが消滅しました。
(3)「モノ造り」依存の限界
欧米諸国は、アジアや東欧に製造工程を出す一方、自らはビジネスモデルの構築や製品デザイン、金融やマーケティングなどの知価行程を拡大させました。
地方の産地の衰退や下請工場の海外流出で、日本の製造現場は「葉茂根枯」となりつつあります
【身中の虫】
(4)現在の「封建諸侯」-縦割り官僚機構
生産性の高い分野への労働力の移動を縦割り官僚機構が阻害していると指摘しています。
(5)体質改善を妨げる自閉気質
日本の自閉気質を助長しているのが「身中の虫」官僚機構であると指摘しています。
【救国維新】
(6)救国維新-五段階の大改革
いまの日本を救うためには「救国維新」必要だと述べています。
(7)まず開国-FTAと外国人労働者の受入れ
救国維新とは具体的には下記の5点です。
- 自由貿易協定(FTA)の拡大と移民の受入れ
- 公務員制度の改革
- 道州制
- ペーパーマネーに相応しい経済財政制度の構築
- 個性や独創性を生かすことを教育の目的とする(株式会社による学校運営を許可するなど)
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