第208号

客先常駐の今後

技術者の一人常駐

第208号「客先常駐の今後」の補足です。

第208号「客先常駐の今後」
[Blog} http://www.gamou.jp/sailing/2008/08/post_453c.html
[HP]   http://www.kei-it.com/sailing/208-080811.html

(1)概要

準委任契約と労働者派遣契約の違いは、仕事の遂行方法・手順について細かい指図を受けているか、それとも、自由裁量の余地があるかです。

□発注者からの業務依頼に対し諾否の自由があり、業務遂行の過程における裁量が認められていることを発注者及び受託者、双方の責任者及び業務に従事する労働者が認識している。
□受託者は仕様書等に基づき自らの判断で業務を処理している。
         (東京労働局「請負適正化のための自主点検表」より)

そして、準委任契約と労働者派遣契約のどちらを選択するのかは、A商事がBシステムに求めていることによって決まります。(図208-3参照)

A商事が山田さんを専門家として扱うなら準委任契約が適しています。
その場合A商事は山田さんに注文を出し、相談をしますが、細かい作業手順については山田さんに任せます。
山田さんはBシステムの代理人としてA商事からの注文・相談を受け、そして、自ら作業も行います。

それに対し、作業手順について細かい指示を必要とする作業員として扱うなら労働者派遣契約が適しています。

(2)結果責任

「作業手順についての細かい指示の有無」から「結果責任の有無」が導かれます。

労働者派遣契約の場合は、結果責任はA商事にあります。
A商事が作業手順について細かい指示をしているからです。
労働者派遣契約によりBシステムが負う債務は、派遣先に派遣契約で定められた人数の要員を派遣するということだけです。

一方、準委任契約の場合は、Bシステムに結果責任があります。
細かい作業手順についてはBシステムの山田さんに任せているからです。
瑕疵があった場合には、(請負契約としての瑕疵担保責任はありませんが、)売買契約に準ずる瑕疵担保責任は問われますし、債務不履行責任も問われる可能性があります。

3.業務の処理について、事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うこと。

□業務の処理について、受託者側に契約違反等があった場合は、その責任について追及できる。
         (東京労働局「請負適正化のための自主点検表」より)

A商事がBシステムに結果責任を問うなら準委任契約が適しているし、問わないなら労働者派遣契約が適しています。

(3)時間と成果が比例するか

労働者派遣契約は時給清算が基本です。
一方、準委任契約では、その仕事の性格に応じて、固定から時給清算まで設定することが可能です。(月間標準時間を設定してその中では固定、それを越えれば時間清算するという方法が一般的です。)

時間と成果が比較的比例する仕事では労働者派遣契約が適していますし、そうでない仕事では準委任契約が適しています。

(4)その結果として

したがって、SE・上級PGの場合は、ほとんどの会社は、一人常駐であっても準委任契約を選択しています。

一方、運用系、テスト系の場合は、労働者派遣契約が向いている場合もあり、労働者派遣契約を選択している会社も多いです。

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偽装請負の極端な解釈

第208号「客先常駐の今後」の補足です。

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偽装請負についてたまに極端な解釈をする人がいます。
極端な解釈とは例えば次のようなものです。
これらは正しいでしょうか?

(1)
「図208-1:社員のチーム常駐」のような委任契約そのものが偽装請負である。
(「請負」とは完成を約する契約であるが、委任契約の目的はサービスの提供であり、完成を約していないから偽装請負である(?))

(2)
「図208-3:社員の一人常駐」のような一人常駐は全て偽装請負である。

(3)
超過時間清算があるなら偽装請負である。

(4)
「図208-1:チーム常駐」のパターンで進捗会議などに個々の担当者(例では杉山さん)が出席したら、偽装請負である。(進捗会議の場で注文や相談を受ける可能性があるから。)

(5)
「図208-1:チーム常駐」のパターンでシステムがダウンした時などのいわゆる緊急時にA商事の社員が直接個々の担当者(例では杉山さん)に直接的な指示・指図を出したら、偽装請負である。

【回答】
(1)の回答
下記記事を参照してください。
「用語の基礎知識(請負・委任・派遣)」

偽装請負を論じる場合には「請負」には「委任」も含まれます。
下記は東京労働局「請負適正化のための自主点検表」からの引用です。

4.単に受託者が肉体的な労働力を提供するものとはなっていないこと。

□契約類型によって、契約書等に完成すべき仕事の内容、目的とする成果物、処理すべき業務の内容のいずれかが明記されている。

      (東京労働局「請負適正化のための自主点検表」より)

引用文中の「契約類型」は請負契約(民法632条)と委任契約(民法656条)を意味しています。

「完成すべき仕事の内容」という言葉は請負契約(民法632条)を意識して使われていますし、「処理すべき業務の内容」は委任契約(民法656条)を意識して使われています。そして、「契約類型によっていずれかが明記されている」ことが求められています。
委任の場合には、必ずしも「完成すべき仕事の内容」は必要ないのであり(委任でも「完成すべき仕事の内容」を決める場合もあります)、(1)の主張は間違いです。

(2)の回答
下記記事を参照してください。

「技術者の一人常駐」
http://www.gamou.jp/comment/2008/08/post_78b2.html

(3)の回答

サービスの提供のために必要な費用の償還請求ができるのは委任契約の基本的な性格です。

例えば、弁護士や公認会計士にコンサルティング業務を頼むときの基本形は、「時間清算+交通費」、または、「基本料金+超過時間精算+交通費」です。

もちろん、委任契約が全て時間清算だと言っているわけではありません。
そのような契約をすれば、時間清算は可能だと言っているのです。

労働局発行の「請負適正化のための自主点検表」で問題にしていることは「高度な技術・専門性がない単なる肉体的な労働力の提供」であるか否かです。

4.単に受託者が肉体的な労働力を提供するものとはなっていないこと。

□請負代金は、{労務単価×人数×日数または時間}となっていない。
但し、高度な技術・専門性が必要な場合を除く

     (東京労働局「請負適正化のための自主点検表」より)

(4)(5)の回答

進捗会議などに個々の担当者が出席して、その席上で委託者としての要望が出され、これを受諾しても請負ではないとは評価されないであろう。また、システムがダウンした時などのいわゆる緊急時は、ソフトウエア会社の担当者に対する直接的な指示・指図も許されるであろう。

(山崎 陽久著「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」より)

(4)については、私は実際にこのように解釈した現場の例を知っています。
現場の業務に支障をきたし、数週間後、担当者も会議に出席するようになったそうです。

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用語の基礎知識(請負・委任・派遣)

第208号「客先常駐の今後」の補足です。

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「請負」という言葉は「委任」に対してを使う場合と「労働者派遣」に対して使う場合とでは、その意味が少し違います。

  1. 「請負」と「労働者派遣」とを対比して論じる場合は、前者は民法に基づく請負事業(委任を含む)を意味し、後者は労働者派遣法に基づく労働者派遣事業を意味します。
  2. 一方、「請負」と「委任」を対比して論じる場合は、民法に基づく請負事業の中での契約の性質の違いを論じているのです。

偽装請負について論じる場合は、1の「請負と労働者派遣とを対比して論じる場合」にあたるので、民法に基づく請負事業(委任を含む)を意味します。

この部分を理解していないと、例えば、「『請負』とは完成を約する契約である。したがって『完成すべき仕事の内容』が明示されていない業務委託契約(委任契約)は全て偽装請負である」というような誤解が生じてしまいます。

 関連記事:「偽装請負の極端な解釈」 の例(1)
 http://www.gamou.jp/comment/2008/08/post_c318.html

請負・派遣・委任の違いを下にまとめます。

○請負事業(法的根拠は民法)
 ・請負契約:契約の目的はプログラムの完成(法的根拠は民法632条)
 ・委任契約:契約の目的は知識や労力などのサービスの提供
       (法的根拠は民法656条)

○労働者派遣事業(法的根拠は労働者派遣法)
 ・労働者派遣契約:契約の目的は労務の提供

尚、細かいことを言うと法律行為を他人に委託することを「委任」といい、法律行為以外の事務の委託をすることを「準委任」といいますが、委任・準委任をひとくくりにして「委任」という場合もよくあります。

さらに詳細は下記を参照してください。

図:請負・委任・労働者派遣
http://www.kei-it.com/sailing/2008/208-0.htm

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ソフト業界は2008年3月を境に技術者余りに転じた

第208号「客先常駐の今後」の補足です。

第208号「客先常駐の今後」
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[HP]   http://www.kei-it.com/sailing/208-080811.html

ここ3年位続いた空前の技術者不足が今年3月くらいで、技術者余りに転じています。

3年位の技術者不足の最大の原因は、金融機関のIT投資の増加でした。
また、二番目の原因は、業績が好調な製造業大手をはじめ、さまざまな業種でIT投資が増えたことでした。

 関連記事:第119号「急速に深刻化するIT技術者不足」
 [B] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2006/03/post_68af.html
 [H] http://www.kei-it.com/sailing/119-060320.html

ところが、今年初めにメガバンクの統合に伴うシステム開発がほぼ終息しました。
それによって、金融機関のIT投資が激減しました。

また、原油高やサブプライム問題などによる景気後退、あるいは景気後退懸念のため、製造業をはじめとする様々な業種でのIT投資も抑制されています。

また、オフショアが増えていることも、ある程度影響しているのかもしれません。

ソフトウェア業界は今年3月を境に技術者余りに転じています。

P.S.

第208号「客先常駐の今後」では、「コンプライアンス問題」と「仕事の減少に伴う技術者余り問題」が客先常駐に大きな影響を与えていることを述べましたが、影響範囲という点では、「仕事の減少に伴う技術者余り問題」の方が広いです。
「コンプライアンス問題」で大きな影響を受けるのは、中間に入っているブローカー的な会社と個人事業主てあり、元請け会社と技術者を抱えている会社は深刻な影響は受けません。それに対し、「仕事の減少に伴う技術者余り問題」は全ての会社に影響を与えます。

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委任の再委託、再々委託

第208号「客先常駐の今後」の補足です。

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(1)委任の再委託

委任の再委託については、若干の問題があります。

例えば、落合和雄、島津秀行著「ITエンジニアのための法律がわかる本」では委任の受任者の義務として、「自ら事務を処理しなければならないという義務」を挙げています。

(委任では)民法に直接の規定はありませんが、この義務があると考えられています。したがって、後述する請負における下請のように他人に処理を行ってもらうことはできません。ただし、単純な補助者を使用することはできます。

(落合和雄、島津秀行著「ITエンジニアのための法律がわかる本」より)

あるいは他の文献でも・・・。

請負の場合は、請負人は仕事の完成義務があり、このことに重点があるので、請負人自身で仕事を完成させないで第三者に依頼して完成させてもよい。
これに対して委任の場合は信頼関係を基礎におくことから、原則として第三者に再委託することはできない。

(山崎 陽久著「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」より)

しかし、元請け業者が責任を持つなら、あるいは明示されているなら、現実的には、委任の再委託は特に問題視されていないと思います。
東京労働局「請負適正化のための自主点検表」も再委託そのものは問題としていません。むしろ再委託があり得ることを前提とした書き方をしています。

□契約書等に再委託(発注)する場合の規定があり、その規定どおりの手続きを行っている
□A社は、B社とC社の再委託(発注)を承知し、C社の労働者とB社の労働者が区別できる。
         (東京労働局「請負適正化のための自主点検表」より)

(2)再々委託

しかし、「図208-4:多重請負」http://www.kei-it.com/sailing/2008/208-4.htm は、委任の再委託の限度を超えているのでしょう。

(1)で引用した「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」にも書かれているとおり、請負契約(民法632条)なら多重請負も問題ありません。
しかし、実態として委任なら偽装請負となるでしょう。

また、実態として労働者派遣なら、それも偽装請負となります。
しかも、その場合、二重派遣になるので労働者派遣契約に切り替えることもできません。

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